千日手
「なあ、バケモノ、ここらで手打ちといこうや。俺はお前を倒して帰る。お前は俺に殺される。これでどうだ?」
フェイラームが手を振ると、幾千の刃が空中に浮かび、イドスに向かってミサイルのように飛ぶ。
「訳のわからぬことを……」
イドスはその全てを受け──百足の装甲が刃を弾き、刃は地面にばらばらと落ちる。
「やっぱだめか!ならこれはどうかな!」
フェイラームは天に手をかざし──巨大な剣がその手に現れ、イドスを押し潰す。
「効かないと言っておろう!」
地面と剣の隙間からからオレンジの粘菌が溢れ出し、イドスの姿に戻る。
「切っても刺しても潰しても駄目かよ!なんとか死ねよ!」
フェイラームは迫りくる毒牙を切断し、叫ぶ。
「私はお前にかまけている暇などないのだ……いい加減に……」
イドスはぱしゃりと液状化してオレンジの水溜りになる。その面積がだんだんと狭くなり、消えた。
「死んだ、か?」
「そんなわけ無いでしょ。逃げられたんだよ。君に任せたのが悪かったみたいだ、フェイラーム。」
と、プラーガは不満げに言った。
「すまん……」
「いいよ。はなから期待してないし。まあ……あいつが何かやらかす前に、今夜は徹夜で探してもらうけどね」
「……マジか?」
「一日二日寝なくても全然平気になったでしょう、僕らは」
そんな話をしながら、プラーガとフェイラームは夜の闇に消えていった。