粘菌
川の下流、イドスは目を覚ました。虫とミジンコを混ぜたような、無様な姿で。
──だが。生きている。これならば……
頭がズキズキと痛む。まだ本調子とは行かないようだ。ならば──進化するしかあるまい。
イドスは陸に上がる。目の前には山があった。彼は手始めに木の皮にこびりついた粘菌を食らう。続いて地を這う百足を、そして通りがかった猪を──
数十分の後、彼の姿は変わり果てていた。そのあたりのものを乱雑に混ぜたような、歪で不格好な合成獣。
猪のような顔をはじめ全身が百足の甲殻に覆われ、牙の先端から毒液を滲ませる。オレンジ色の粘菌が、血管のようにその体を覆っていた。
「いいぞ……だいぶマシな気分だ!」
イドスは再び増殖をはじめる。山奥は彼に満たされていく──そして山に住まう生物が、彼を満たしていく。
「あーあ、面倒だなぁ。一匹駆除しそこなっただけでこんなことになるなんてね」
オレンジ色に染まりゆく山を見ながら、プラーガは呟いた。片側だけの目が怪しく輝く。
「プラーガ。お前はちゃんと仕事してたよ。今日はお前は見てるだけでいい。そろそろ俺も仕事をしなきゃいけないからな」
プラーガの隣には、同じような姿の戦士が一人。
体色が銀色であることと2メートルはあろうという背丈以外は、プラーガと全く同じだった。
「じゃあ頼むよ、フェイラーム」
「任せろ!」
フェイラームと呼ばれた銀の戦士は、力強く頷いた。