三つ編み
蒼はコンビニ袋を置いて帰っていった。
さてらいとは帰ろうとしない。
「どうした、さてらいと?」
「いや、少しね。まだ心配だから、もう少しここにいさせてよ」
長い睫毛に飾られた、宝石のような目がシオンを見つめる。
「いいけど……暇じゃないか?うちなんもないぞ」
「いいんだ。暇だって……楽しいんだ、どういうわけか」
「それならいいけどさ、飽きたら帰れよ」
「飽きたらね」
さてらいとは微笑むと、床に寝転ぶ。絹糸のような髪が、床のフローリングに広がった。
──なんなんだろうな、なんか変だよなこいつ。
シオンは訝しむ。記憶にあるさてらいとはもっとクールで、静かで……いまと比べると、無機質だった。
「どっちのほうがいいかと言われたら……まあ……」
シオンは呟く。さてらいとはこちらを見て微笑んでいる。
「どっちだろうな……」
さてらいとは目を細め、頬を少し膨らませた。
──どういう感情なんだ、こいつ。
なにかのバグだろうか。
「ねえ、シオン。髪がバラけて鬱陶しいから、三つ編みにしてくれないかな」
さてらいとは上体を起こし、シオンに背を向けた。さらりと真っ白な髪が揺れる。
「やり方がいまいちわかんないんだけど……」
「教えるからさ」
「なら……いいけど。多分上手くできないぞ?」
「いいんだ、それでも。それが」
シオンは戸惑いながらも、さてらいとに教えられるままに髪を編んでいく。
「なかなか上手くできた……か?」
数分後、さてらいとの髪は、当たり障りのない一本の三つ編みになっていた。
「ありがとう、嬉しいよ。不便なもんだけど……悪くないね、この体も」
さてらいとは毛先を指で弄び、笑った。