落下
落下、大気との摩擦の熱に悶え苦しみ──イドスはようやく地上にたどり着いた。
落下の直前に謎の斥力が働き、地面には小さいクレーターが刻まれるだけで済むのは、彼らの種族の特性だ。
「まったく、あの小娘め……」
好き勝手に船と地上を行き来する権限を持つのはレドクスやヴィーチェなど一部の上層階級のヴォイド──ロードのみ。
イドスたちワーカーが帰るには、ロードの許可が必要だが……
──あの小娘を殺そうとした私を、果たして彼らは迎え入れるだろうか?──いや、あり得ない。あり得たとして……私を処刑するためだろう。ならば。
地上で生きていくしかあるまい──と彼は腹をくくった。
幸いにもヴォイドは基本的に食事を必要としない。生き物を喰らうとき、それは自らを進化させる時だけだ。他の生物の優れた形質を取り込み、新たな姿へと──進化しようとした結果がこれなのは、少々失敗したきらいがあるが。
イドスは自分の手を眺め、ため息をついた。明らかにヴォイドは弱くなった。それもこれも、余計なものを持ち帰ったワーカーのせいだ──が、個体として分かれる前は彼も自分と同一であったし、たとえ別個体として考えたとして彼は既に死んでいるので恨んでもどうしようもない。
「さて、まずは拠点か……」
この体は目立つ。人目と雨風を凌げる場所を探さなくては。