張り込み
二日後の夜。眠い目をこすりながらシオンは張り込みをしていた。
巻き込まれるような形で鼠島も一緒だ。
「兄ちゃん、コーヒーとか飲むか?」
「いや、いい。飲めない。」
差し出された缶コーヒーを断り、緑茶を飲む。
もう冬は終わる季節のはずなのに、地獄のような寒さが身にしみる。
「本当に3日で来たんだよな?もう帰っていい?」
「この寂しい中年を、更に寂しく一人置いていくのかい兄ちゃん?」
「何だそれ気持ち悪い。」
と言いながらも、シオンは再び腰を低くし、物陰に隠れ直す。
宛名もない荷物がポストに入れられるのであれば、入れた奴はそれを配っている組織と何らかのつながりはあるだろう。
そしてそいつが来るとしたら、深夜。
早朝にポストを見る習慣のある鼠島が、昨日の夜の時点で無いのを確認済みだ。
「兄ちゃん、コンポタ飲むか?」
いつの間にかまた飲み物を買ってきていた鼠島が、シオンに缶を手渡す。
「……貰うよ、ありがとう。」
缶を受け取り手を温める。
生き返る気分だ。
空になった缶を地面に置く。これで5つ目だ。
あれからだいたい一時間。まだポストに誰かが来る気配はない。
「明日もバイトだから早く寝たいんだけどなぁ…」
シオンは欠伸をする。鼠島はやたら元気そうだが。
「おい兄ちゃん、あれ、違うか。」
しばらく後。鼠島の指差す方向を見ると、フードを被った人影が鞄から何かを取り出し、郵便受けに入れるところだった。
「ナイス。行ってくる。」
フードの男はそのまま立ち去っていく。
シオンはその背中に追いつき、肩を叩く。
「お前、ちょっといいか?」
肩に置いたシオンの手を振り払い、フードの男は逃げる。
「やっぱそうなるよな!でも足には自信が…自信が…」
男とシオンの距離は離れていく。
ジョギングしかしてない足で
「短距離はだめか……なら!」
『マスクドオン!ジュピター!』
変身により上がった脚力が、離された距離を詰めていく。
「追いついた!おわっ!?」
追いつかれたフードの男は足を止め、背後のシオンを払うように殴りつけようとした。
ステップで回避した一瞬の隙を逃さず、男は狼の怪人に変身した。
「ちっ、厄介な!」
「ウォォォオオオオー!!」
月に向かい遠吠えをした怪人は、鋭い爪でシオンに襲いかかる。
「うわっ!?」
思いの外素早い攻撃にシオンは咄嗟に身をかばう。
「あれ?」
──攻撃が来ない。 怪人はどこだ?
……いない。逃げられたようだ。
さっきの攻撃はブラフか、見た目よりは頭がいいようだ。
だが。こっちには粒子を追うという方法がある。
「さてらいと!粒子の行方は?」
[だめだね。どういうわけか粒子が見当たらない。 炎の怪人のときと同じだ。]
「くそ!徹夜の労力がパアかよ……俺のせいで……」
[そうでもないよ。少しだけだけど手がかりは得られた。今日のことがあったから、このあたりに来る運び屋も少しは減るだろう。]
「そうだといいけどな…」
嫌な予感なのか、それとも外気の温度のせいか。
シオンは背筋に冷たいものを感じ、身震いした。