別れ
響く衝撃音──しかし青い男の拳が、キュステアに届くことはなかった。
「イーシュム、これはどういうつもりだ?」
いつの間にかそこにいた緑の男が、青い拳を掴んで止めていた。
「れ、レドクス……どうしてここに……?」
「今質問しているのは我だ。答えろ。どういうつもりだ?」
怒りを含んだ声で、緑の男──レドクスは言う。
彼がイーシュムの腕を掴む力は強まり、骨がミシミシと軋む。
「あがっ、ああ……これは……あなたのためを──」
「ほう……我のため、とのたまうか……ならば……」
「お、おやめなさい、レドクス……!」
レドクスが握りしめた拳が赤く発光し──
「我のため、今ここで死ね」
赤く光る拳はイーシュムの胸を貫き──彼は糸の切れた人形のように地面に倒れふした。
「娘と部下が迷惑をかけたな」
レドクスは腕についた青い血と肉片を振り払い、シオンの方に振り向き言った。
「いや……娘って……まさかお前……」
「いかにも。お前たちがヴォイドと呼ぶ……敵だ。今日はただ家出した娘を探しに来ただけだがな」
「ああ、そうか──だから迷子の問い合わせもなかったんだな」
「シオン……ごめんなさい。私……」
キュステアはうつむき、声を震わせていた。
「気にしてないよ。お父さんが迎えに来てくれてよかった」
「シオン……」
「今日はもううちに帰りな。お母さんも心配してるだろうし。よかったらまたおいでよ」
「うん。バイバイ、シオン。またね」
「いいのか?我らをみすみす逃して。今我を倒しておかねば、この星は……滅ぶかもしれんぞ?」
レドクスの問いに、シオンは首を振った。
「そうかもな。けど親子の再開に水差すのは趣味じゃないんだ」
「ははは、不思議なものだな、人間というのは……」
「俺にとってはお前らのほうが不思議だよ。聞きたいことは山ほどあるが……まあ次の機会でいいや。気をつけて帰れよ」
「借りができたな。また会おう」
そう言い残し、キュステアを抱えたレドクスは消えた。