青い男
シオンがその日2度目のショーを終えてもキュステアの親は現れなかった。
「心配だね……」
大取は心配そうに言う。キュステアははしゃいで疲れたのか机に突っ伏し、すやすやと寝息を立てていた。
「このまま親と会えなかったら……」
呟くシオンの顔も暗い。
「そんなことはないと信じたいけど……」
と、机に突っ伏していたキュステアが跳ね起きる。
「残念、お迎えが来ちゃったかも。」
「ああ、それはよかった。……で、どこに?」
答えを聞く間もなく、蕎麦屋の扉が爆音とともに吹っ飛んだ。
「こんなところにいましたか、姫。さ、早く帰りましょう」
吹っ飛んだ扉の向こうにいたのは、ひょろりとした人型の──しかし人間ではないとわかる、青い肌の生き物。
「嫌。あそこは退屈だもの。まだしばらく帰らないと伝えて」
「ご両親は心配しておられますよ」
「私の退屈に比べたら大したことはないわ」
「いいえ、お二人ともとても嘆き悲しんでおりました。私はなんとしてでもあなたを連れ帰るという使命が……」
「嘘ね。あなたの言葉、聞いてて嫌になってくる。心がこもってないもの」
キュステアに指さされ、青い唇が醜く笑む。
「流石に姫様。聡いお方だ」
「あなたは酷い馬鹿ね」
「く……言わせておけば、小娘が!」
飛びかかる青い男の拳を止めたのは、いつの間にか変身していたシオン──ジュピターだった。
「ぶっ壊した扉代……っても多分お前金ないよな。皿洗いしっかりしてもらうぜ」
「扉?皿?なんのことだ、邪魔をするな人間、貴様などいつでも塵芥にできることを心得よ!」
逆の拳を受け手で絡め取り、ジュピターは青い男を店外へ放り出す。
「人のバイト先をこれ以上荒らすな糞宇宙人!」
青い男は着地し体勢を立て直す──と同時にジュピターの飛び蹴りが側頭部を直撃し、再び吹っ飛んだ。