とまり木
「あれ、どうしたのシオンくん。忘れ物?それとも未成年略取?」
帰ったと思えばすぐ戻ってきたシオンを見て、大取は不思議そうに言う。
「どっちでもないって。この子が離れてくれなくて……」
「なるほど。こういうときにいい方法があるよ。……君、飴食べる?」
と、大取は飴を少女に差し出す。
「あめ?」
少女はシオンの足から離れず、片手だけ差し出し飴を受け取る。
「ごめん、だめだったわ」
大取はすまなさそうにシオンに言った。
「手数が少なすぎる!」
シオンは嘆く。それを意に解する様子もない少女は、飴を包み紙から取り出して口に含みニッコリと笑った。
「まあおまわりさんに連絡したほうがいいよね。した?」
「いや、とっさのことだったからまだ……」
「じゃあしとくから。その子の気が済むまで居てあげなよ。流石にショーまでには間に合うでしょ」
「諦めが良すぎる……」
シオンのぼやきを無視して、大取は店の奥に電話をかけに行った。
「私、キュステア!」
飴を口の中で転がしながら、足にへばりつく少女は言う。
「ああ、そう……」
「かっこいいの人!名前!」
「ああ、名前?シオンだよ。」
「シオン……えへへへ」
少女は幸せそうに口元を綻ばせる。
「あ、シオン君。警察の方には迷子の情報はないって。商店街の方にも一回問い合わせてくれてるけど、多分そっちにも連絡は行ってないんじゃないかなー」
戻ってきた大取は少し不安げに言う。
「しばらくはこっちで預かっといてってさ」
「とまり木続行か……」
「続行だね。がんばってね……」
大取は仕込みのためと店の奥に入っていった。薄情な、とシオンは心の中で毒づいた。