行方不明
遥か空の上、群体船の中。レドクスとヴィーチェは焦っていた。この体に生まれ、必要になった睡眠から覚めるとキュステアがベッドから消えていた。
「子の成長は早いというが……まさかここまでとはな……」
レドクスは呟いた。機能の時点で5歳児か6歳児相当には育っていた。一人でどこかに駆け出すような好奇心が頭をもたげるのも時間の問題かもしれないとは思っていたが──まさかその翌日にこうなるとは。
「ああ……どうすれば……あの子にもしものことがあったら……」
ヴィーチェは生気を失った顔をして、おろおろと船内をひっかき回す。が、見つかるはずもない。
レドクスは知っていた。群体船から何者かとても小さい身長を持つものが出ていった形跡があることを。
──しかし、これをどう伝えたものだろうか?
ヴィーチェに伝えれば、彼女はいっそう取り乱すだろう。何をするか、正直わからない。
「すまない、少し外す」
「あなた、こんな一大事な時に、どこに行こうとしてるの!?」
キンキンとした金切り声。生まれて初めて聞くそれを、レドクスは少し不快に思った。
「トイレだ、すぐ戻る」
「トイレなんて私達──」
レドクスは背後のドアを締めた。必要ない、と言おうとしたのだろうが──ドアの防音力は万全だった。
「……今のうちに、地上に降りるべきか?」
レドクスは呟く。だが、錯乱状態に近しいヴィーチェを一人置いていくのは不安だった。
──どうすればいい?どちらをとればいいのだ?
レドクスは頭を抱える。
「何かお困りでしょうか?」
ねっとりとした声に顔を上げると、青い皮膚を持つひょろリとした人型ヴォイドが佇んでいた。
「ああ、イーシュム、お前か……」
正直に言うと、レドクスは彼が嫌いだった。
何を企んでいるか知れぬ、その顔が。
猫なで声のようにしているが、神経を逆なでするその声が。
そして時折、羨望のような目でヴィーチェを見つめるその存在そのものが。
──彼に話すべきか?本当に?彼は信用できない。いや、しかし……
「私に悩みをお話しするのはお嫌でしょうか?ねぇ、大丈夫ですよ。私ならどのようなトラブルでも、安全に解決して差し上げますよ。たとえば
、娘さんがいなくなったとか──」
「──!なぜそれを……?」
レドクスは動揺する。
「いえ、あなた方がそこまで取り乱すことといえば他にないでしょうからね──まぁ私にお任せなさい。ご乱心の奥様が待っていますよ」
「くっ……」
確かに、他に手はないように思えた。だが何か大事なことを見落としているような──
突如、レドクスの背後でドアがドン、と鳴り、ミシッと軋む。
体当たりをかけているのだろうか。
既に考えている時間は無い。
──ヴィーチェは怒り狂っている。鎮めねば関係の修復は不可能だ。それはなんとしてでも避けたい──
レドクスの思考を呼んだかのように、イーシュムはニヤリと笑った。
「では、決まりということで……」
「待っ……」
待て、と言いかけた声はヴィーチェがドアを叩く音にかき消され、イーシュムはあるき去っていった。