家族
遥か空の上、レドクスたちは子の成長をただ見守っていた。自分たちの務めを忘れたわけではない。ただ、心地良い時間を、家族というものを、少しでも長く味わっていたかったのだ。
「まぁま……」
「どうしたの、キュステア?」
ヴィーチェは優しく微笑み、キュステアと呼ばれた赤子に手を伸ばす。その成長は人間と比べてあまりに早く、既に一歳児ほどの大きさにまで成長していた。
「まだ「パパ」とは呼んでもらえぬか……寂しいな。」
そう言いながらもレドクスは目を細め、キュステアに笑みを向けた。
レドクスたちもまた、変化していた。感情を口に出すことに慣れ、時々生まれ船内をうろつくヴォイドより、遥か遠くの地上に生きる人間たちのほうが自分たちに近しいもののような気すらしてきていた。
「そんなに先のことじゃないでしょ、あなたのこと、この子が。パパって呼べるの。そして……」
口調すらも変わってきているヴイーチェは、言いかけて口をつぐむ。
「わかっている。だからこそ……今を、楽しみたい。ヴィーチェ、キュステア……ずっと、お前たちと共に……」
それが不可能なのは、彼も理解していた。
人間たちがヴォイドと呼ぶこの種族の運命。
たどり着いた星を食らいつくし、その糧とし新たな星へと旅を続ける。これまでずっと、そうしてきた。そしてこれからも、それを続けなくてはならない。
そうでなければ──自らを維持するエネルギを無くし、この群体船は落ちる。
だからせめて、その日までは。
こうして家族を、愛に満ちた日々を、たとえそれが身勝手でも続けていきたいとレドクスは願っていた。