帰り道
「あれ?そういやあいつ……夜雲いないな。どこいったんだろ。」
蒼とタタラに引きずり込まれた打上げカラオケの帰り道、シオンはふと気がつく。
命を張った戦闘の後に何故カラオケ?と疑問はあったが、終わってみればなかなかに楽しかった。
日はとっぷりと暮れ、夜。まだ少し風が冷たい。
さてらいとは歌とか知らないからと帰り、キキは療養のため帰り、トオルはバツが悪そうに帰った。あのとき、そういや夜雲だけいなかった。
どこか胸騒ぎがしたが、気のせいだろうと思いなおす。
「あいつなら大丈夫だろ。そのうちふらっと戻ってくるさ」
蒼は夜雲のことをまるで猫か何かのように言い、空を眺めた。
ぽつぽつと電気がつきはじめたとはいえ、街の明かりはまだ少なく、薄暗い。
それが星の輝きを、いつもより僅かながら引き立たせているように彼は感じた。
「暫く平和になりそうだな。」
瞬く星を数えながら、蒼はシオンに言う。
「ああ。これをしばらくじゃなく、ずっとにしなきゃな。」
シオンは瞬く該当を見ながら答えた。点滅する明かりはあの日のことを思い出させる。はじめて変身し、戦ったあの日を。あれからずいぶん遠くに来たような気がするが、そこまで長い日が経ったわけでもないな、とシオンは思った。
「ヒーローらしい台詞だな。俺は無理だぜ、そんなの」
と、蒼は頭を掻く。タタラは歌いすぎて声が枯れたらしく飴を舐めながら一言も発さないが、それでも首を縦に振り、賛同の意を示していた。
「そうか?なんか俺よりずっとヒーローっぽいぞお前……」
フォームチェンジといい、言動といい、元怪人──いや、今も一応怪人か──とは思えないほど、蒼はヒーローが板についているな、などと考えながらシオンは言った。
「いや……ヒーローってのはさ。みんなを助けるもんだろ?俺そういうのなんか無理でさ。手の届く範囲だけで、助けたい相手しか助けられないからさ、だから……」
「そんなもんだろ。ヒーローったって中身は人間だぞ。」
「そんなもんかな……」
蒼は首をひねりながらつぶやく。空には見慣れない赤い星が瞬いていた。




