大顎
「ふう、危ないところだったが……まあ、よしとしようか。目当てのものは手に入ったしね」
薄暗いラボの中、全身ボロボロのジェニュインボルトはカプセルのようなものを取り出す。中には黄金の輝きを放つ欠片。
「最後の瞬間、一か八かで削り取ったこれで、私はさらなる力を──」
「させませんよ」
ジェニュインボルトの独り言を遮ったのは、薄暗がりに紛れた悪魔の如き姿の戦士。サタナキアだ。
「ああ、夜雲くん。私の半身がお世話になったね」
「取るに足らない相手でしたよ。かつての上司とは思えないほど。ところで、何故ここに?探しものですか?」
「……それを聞いて、どうする気だい?」
飄々とジェニュインボルトは答える。が、その奥に秘めた焦りに、夜雲は気がついていた。
「聞いているんじゃありません。今からあなたにささやかな復讐をする、という意思表示ですよ」
「ほう?」
「探しものは、これですか?」
サタナキアはオレンジのUSBメモリをジェニュインボルトに見せた。
「そのとおりだよ、寄越せ!」
バチン、と電気の流れる音。目にも止まらぬ、電流の速さでジェニュインボルトはサタナキアに向かい突進する──が。
「ぐっ……これは……?」
空気中のなにかに絡め取られ、動きを止められたジェニュインボルトは呻く。それは障壁のように、彼を阻んだ。
「絶縁性の霧ですよ。なんとなく必要そうだったので、予め備えておいたんです。冷静さを欠いたあなたくらいなら、蜘蛛の巣にかかった虫のようですね」
「君のほうが、一枚上手だったわけか……!」
「今回は、ですがね。そして──次回はありません」
『デスムーブ……スタンバイ……』
サタナキアのチェンジャーが鳴ると、その右腕がめきめきと音を立て鰐の顎のように変形していく。
「ああ、冥土の土産に教えてあげますよ。試作品も予備データも、全て責任を持って処分しておきましたから」
夜雲は氷のような声で言い捨てた。
「貴様……!」
怒りをはらんだその叫びが、ジェニュインボルトの──雷斗の最後の言葉になった。
『デスムーブ……プレデティション……!』
禍々しい音楽とともにサタナキアの右腕が変形した巨大な大顎が、ジェニュインボルトに食らいつき丸呑みすると、もとの腕に戻った。
「人を強制的に怪人に変える装置……これを進化と信じ込んでいたあなたは、どこで狂ってしまったんでしょうね?」
左手のUSBメモリを握りつぶし、粉にするとサタナキアは変身も解かずラボを後にした。




