アプデ
「はははは!勝った!勝ったぞ!」
タオルの怪人が満足げに笑う。
彼が空を見上げると、きらめく星が勝利を祝福しているように感じた。
簀巻きの芋虫に視線を戻すが、動く様子もない。
「初仕事がヒーロー相手とはついてねえが……憂さ晴らしにはちょうどいい!いたぶらせてもらうぜぇ!」
と、タオル怪人が糸の芋虫を蹴り飛ばす。
が、その手応えがあまりにも軽い。
芋虫はへにゃりと折れ曲がる。その中にシオンは既にいない。
「今のはだいぶ危なかったぞ!」
振り向いた怪人の頬に、シオンは拳を叩き込む。
「ぐっ……なんで!」
「教えるわけないだろ!」
変身を解除すれば、多少体が小さくなり拘束が緩む。瞬時の判断だった。
「疲れてるからお前倒してとっとと寝たいんだよ。終わりだ!」
『フィニッシュムーブ!スーパーバニッシュインパクト!』
放たれた光る拳はタオルの怪人を吹き飛ばし、背中から飛び出したギアが爆散した。
「じゃあな。二度と悪いことすんなよ」
シオンは元の姿に戻ると、怪人だった人間を放置して帰路についた。
またあいつが路上強盗でもするようなら、そのときはまた倒すまでだ。
とにかく今は眠い。
『アップデートされたバニッシュインパクトを受けたので、彼はもう怪人になれないよ。』
チェンジャーから声がする。
「それは何よりだ」
有用なアップデートもするんだな、とシオンは思った。
朝の時点でやっといてくれ、とも。
怪人名鑑#6 トライスター
絞った雑巾のような見た目だが、れっきとしたカイコガの怪人。
強靭な糸による拘束が特徴だが、いかんせん実戦経験と発想力が足りなかった。
変身者はお気楽な大学生。「留年するたびに500円貰ってたら今頃大金持ちだぜ」が持ちネタだ。