衣替
風が、吹き始めた。倒れたまま動かないキュウキに覆いかぶさるように、旋風が行き止まりに吹き付ける。
「ウ……ウ……ウ」
キュウキが微かに呻き、まだ回転を続けるアンプリフェクション・ギアからは灰色の光が流れ出し続けていた。
「おいおい、なんだよ……?」
ヴォルクは距離を取ったまま呟く。これ以上近づけば──と、本能が危険を叫び続けていた。
本当は今すぐにでも尻尾を巻いて逃げ出したい。が。
「あいつらの仲間か友達か、それとも敵──お前がほんとはどう思ってるかなんて知らねえけどさ。嫌なんだよ。勝ったのにお前を連れ帰ることも出来ずに逃げるなんて──だから!」
ヴォルクは駆け出す。アンキモだかアンゴラだったかのギアを取り除けば、この不気味な風も止むはずだ、と。
が、彼の手がギアを掴むことはなかった。
強まった風は嵐のような暴風となり、ヴォルクを木っ端のように吹き飛ばす。
「ぐっ!?」
壁に叩きつけられ、風圧によって張り付けられ動けないヴォルクの目に、キュウキがバネじかけのように跳ね起きるのが見えた。
全身が灰色の光に覆われ、その姿は巨大なイタチの風船細工のようだ。
「ああ……なっちまったか……化け物に……化け物どうし殴り合うのもつまらねえしな……俺も……!もう1段階、衣替えといこう……!」
ヴォルクは壁に張り付けられたチェンジャーを取り出し、装着する。
「変身!」
吹き付ける風でかき消された返信音とともに、蒼はロムルスへと変身し、なんとか地面に降り立った。