クナイ
「よーし、喰らえー!二度目の必殺!手裏剣ハリケーン!」
ミュートルはくるくると回転し始める。ニ枚目の手裏剣を期待したか、子どもたちの歓声が上がる。
コマのように回転するミュートルから、手裏剣が溢れ散乱するが、シオンには当たらない。
「甘い!上だよ!」
シオンは叫ぶ。手裏剣の来ない高さまで跳躍し、垂直落下の勢いを加えた跳び蹴り──回転で少し勢いを殺されたが、当たりはした。
「ぐぅ……やるようになった!」
ミュートルは地面を転がる。ダメージはあまり多くなさそうだが、ヒーローショーなのでそのほうがいいな、とシオンは思った。
「ならば次の必殺!無限1UPのやつ!」
ミュートルが叫ぶとその手足と首が縮み──甲羅だけのような姿になる。
「準備完了!さ、押してくれ!」
「誰が押すか!」
シオンのツッコミ、そして子どもたちの笑い声。
巧いな、とシオンは思った。いつものショーの何倍も、空気が盛り上がっている。
「頑張れー!」「どっちも頑張れー!」「どっちもやっつけろー!」「どっちもくたばれー!」
子どもたちの歓声の声がかすれてきている。このままでは喉を痛めるだろう。なんか不穏なのも出てきている。
「そろそろ潮時かな。行くぞ!」
「来い、ヒーロー!超必殺!クナイオブナイツ!」
ミュートルはコマのように回転し、手裏剣とは違う細長いもの──ゴム製のクナイを撒き散らす。「同じじゃねーか!」
シオンは叫び、跳躍してクナイの嵐を躱す。
そしてチェンジャーを操作し──
「フィニッシュムーブ!ディスガイス インパクト!」
爆発音とともに、ミュートルの姿はステージから消える。
「この世に忍者を信じるものがいる限り!タータントミュートルは何度でも蘇る!その時までしばしの別れだ!ヒーロー!ぐわああああ!」
迫真の断末魔がスピーカーから流れると、万雷の拍手がシオンを包んだ。