花言葉
「このような感じで、どうでしょうか?」
戻ってきた店員の手には、こじんまりとしたバラの花束。ピンクの紙のようなものと白いビニールにくるまれていた。
「あ、え、っと。いい……と思う……かな」
シオンはたどたどしく答える。
「ありがとうございます。リボンの色は何色にしましょうか?」
「あ、いや。家に飾るから、リボンとかは……プレゼントとかではなくって」
「え、そうなんですか?私てっきり……彼女さんとかに渡すものだと」
そう言われてみれば、確かに女性受けしそうなラッピングだ。
「そんな。相手もいないですし……」
「え?そうなんですか?そっか……お兄さん、バラの花言葉って本数で変わるんです。知ってました?」
「え?」
花言葉、と言うのは聞いたことがある。 しかし意味まで考えたことはシオンにはなかった。
「5本だと、「あなたに会えてよかった」って意味なんです。」
「へー……」
「こうやって会って、こんな花言葉になったのもなにかの縁ですし、一本サービスしておきますね。また来てください」
と、店員はもう一本薔薇をケースから取り、手際よくラッピングしてシオンに渡した。ピンクのバラだった。
「あ、ありがとう。また、来ます」
と、シオンは店を後にした。
「なんか疲れた……」
シオンは花束が入った袋を眺める。
「あ、花瓶……まいっか。次のときとかで」
再びあの店に戻るのは勇気がいった。
「会えてよかった、かぁ……」
シオンは店員の顔を思い出そうとしたが、緊張していたせいか髪の色すら覚えていなかった。