常
「なんか、変なんだよなぁ……」
シオンは洗面所の鏡に映る、自分の顔を眺めながらつぶやく。
金色の瞳になってから、体の調子がやたらいい。異常なほどに。
五感全てが冴え、頭も以前より良くなったような、そんな気がする。
「これも選ばれたとかなんとかの影響かな?かわりになんかやらなきゃいけないとかだったら面倒だなぁ……」
シオンは歯ブラシを咥えながらもごもごとぼやき、歯磨き粉の泡を吐き出した。
どことなく青みがかかっている気がしたが、気のせいだと信じたい。
「さて──」
今日の予定は昼からヒーローショー。それだけだ。
数日後に何か作戦があるらしいので、明日はその打ち合わせがあるが──今日はそこそこに暇だ。
時刻は現在午前五時。この目になってからやたら目が覚めるのが早い。
手持無沙汰を埋めるように、シオンは冷蔵庫から食材を取り出す。
「ニラ玉でいいよな……」
ネットで調べたレシピを頼りに材料を切り、混ぜ、フライパンに放り込む。
その手付きは素人と思えないほどに鮮やかだった。
「できた……」
フライパンからふわりと柔らかさを感じさせるニラ玉が滑り、皿の上に乗る。
「あ、そうだ。ご飯炊いてない……パンでいいか。」
ニラ玉をスプーンで切り分け、パンに乗せる。
ミスマッチに思えたが、案外食べられる味だった。
「ジョギングでもしてくるか……」
朝食を食べ終えたシオンは底のすり減ったスニーカーを履く。
靴底はここ数日で急激に摩耗している。もう少し強度のある靴を買うか、作ってもらうかしたほうがよさそうだ。