完敗
「さ、そろそろちょっと本気出そうかな。まだいける?」
数分後、汗一つかいていないキキはポケットからチェンジャーを取り出す。
「……まだ……まだ余裕だ……!」
肩で息をするロムルス。先程からありとあらゆる攻撃をいなされ、躱され、地面に叩きつけられ続けていた。
「そうかい、根性あるやつは大好きだよ。変身!」
『マスクドオン!V・I・P!ビップザスター!!』
効果音とともにキキの全身が光に包まれ、テンガロンハットを被り銃を装備したヒーローへと変化を遂げる。
「こっからまだ強くなるのか……?」
マスクの奥、冷や汗を垂らしながら蒼は呟いた。
「死なない程度には手加減してあげるけど……」
銃を投げ捨て、ビップは地面を蹴り──次の瞬間には、蒼の目の前にいた。
「怪我はなるべく、自分で回避してね!」
咄嗟に蒼は両腕を交差させ防御の姿勢を取る──間に合った──が、防御程度ではビップの突きの威力を減衰するに至らなかった。
「ぐっ!?」
ミシミシと交差させた腕の装甲が軋み──パリン、と硝子のように割れる。
隕石にでも打たれたような衝撃で蒼はバランスを崩し、地面を転がり──ドォン、と音を立て、ブロック塀を粉砕した。
「はぁ……はぁ……」
ロムルスは立ち上がる。
コンクリートの砂ぼこりが舞う。その先にビップはいなかった。
「どこに──」
突如、頭部に衝撃。足元にぬかるむような感触を感じた。足元はコンクリの砂利と土だが、どうやら地面に数センチ足が沈んだようだ。
「く……」
地面から足を抜く間もなく、真正面のビップが突きを放つ。今度は防御も、回避も間に合わない──ならば。
「うおおおおっ!」
蒼はその拳に合わせるように突きを放つ。衝突、ロムルスとビップの二人は衝撃に吹き飛ばされた。
ロムルスは地面を転がり──ビップは着地。再びロムルスに突進する。
「いいねえ、見どころあるよ!これで、一旦──終わりにしとこうか!」
ビップは蒼の数歩手前、跳躍する。
「上か!」
「当たりだよ、けど──それだけじゃ20点ってとこだね!」
『フィニッシュムーブ!パワーストライク!』
チェンジャーから音声が流れ、ビップは空中で回転し、その右膝から先が光に包まれる。
「はあああっ!」
光を纏った踵落としが、蒼を杭のように地面に打ち込み─その変身を解除させた。
「やっぱ……強いな……」
蒼は息も絶え絶えに呟く。
「うん、いい運動になった!ありがとね。」
キキも変身を解除し、富岡宅内に入っていった。
「……帰るか。」
蒼は地面から足を抜き、立ち上がる。
──圧倒的だったが、学ぶことがなかったわけじゃない。俺だって……! 次は必ず……!
蒼はよろよろとバス停に向かう。
次のバスに間に合うかどうかは五分といったところだが、間に合おうと間に合わなかろうとどちらでもいいな、と蒼は空を眺めながら思った。