ギア
数日間、表立ってこれといった動きはなかった。遥か上空のヴォイドにも、その下に住まう人間たちにも。
が、変化は確実に起こっていた。これから始まるであろう、大きな戦いに向けて。
「ヴォルク……いや、蒼。これ、あなたにプレゼントしておきますよ。」
富岡宅、当然のように招かれていた蒼に夜雲──未だ黒いジュピターの姿だ──はギアを2つ差し出した。
「なんだこれ?」
蒼は受け取らず、怪訝な顔をする。ついこないだまでこちらを殺そうとしていた相手だ。信用できないのも無理はない。
「怪人細胞とヒーロースーツの拒絶反応を抑えるギア……フェイスレスシステムと同じものです。それと、こっちはフォームチェンジギア。」
「別にいいぜ、あのくらいの気分の悪さなら慣れた。」
「悪化すると死にますよ、あれ。アレルギーみたいなものなんですから……」
「う……じゃあ……もらっとく。ありがとな」
と、蒼は2つのギアを受け取る。流石に変身で死ぬのは避けたかった。
「いえ……これくらいの戦力拡充がなければ、私の目的は果たせませんから」
目的は果たしたとばかりに夜雲は去っていった。
「なんだあいつ……」
と言いながらも、蒼はポケットに貰ったギアをしまう。
「フォームチェンジ、か……」
少し蒼のテンションが上がった。彼も子供の頃は特撮のヒーローに夢中だった。フォームチェンジは大好物だ。
蒼はポケットからギアを取り出し、眺める。5個に分割された円と、それぞれに描かれた属性を表すような紋様。
「いいな、これ。ちょっと使ってくるか。」
蒼はその性能を試すため、裏庭に向かった。
『チェンジ……ザ・ロムルス!』
こざっぱりとした変身音とともに、蒼は紺の戦士に姿を変えた。
その左手に装備したチェンジャーには、夜雲から貰ったギア。
「おお……吐き気も目眩もねえ。すげえな……!次は……」
貰ったもう一つのギア。フォームチェンジギアだ。
「よっしゃ、行くぜ!」
蒼はギアを装填し、チェンジャーを操作する。
『フォームチェンジ!アクア!』
音声とともにギアから水のようなエフェクトが迸り、包まれた蒼の装甲の色が水色に変わる。その表面を、白く波紋のような文様が彩っていた。
「うおお……あいつ、わかってんなぁ……意外といいやつなのかな?」
蒼はつぶやく。彼は単純であった。