雷斗
倉庫の奥、隠された研究室。フレイムボルト──雷斗はキーボードを打ち込む手を止めた。
「ようやく、完成したよ。」
すぐそばの装置から出力されたのは、禍々しいヒビのような赤い筋が全体に走る、灰色の変身装置。
「これで、人類はまた一つ大きな一歩を踏み出したと言えよう。感謝するよ、怜央、そして──夜雲。」
怪物に成り果てた方と、もうこの世にはいない──と、彼は思っている──元部下の名をつぶやき、彼はほくそ笑んだ。
「これがあれば、私は世界を──すべてを、手にすることができる。新たな世界の、王は──いや、神とも言えるか──」
壁の向こうからは山羊の怪物、怜央の唸り声。
──あれは強い。まだ捨て駒として使えるはずだ。
「雷斗さん、お忙しいところすみません」
雷斗は背後から聞こえた声に振り返る。
「ああ、構わないよ。久々だね──」
彼を迎えると、雷斗はギアを一つ引出しから取り出し、手渡した。
「これで、君もフェイスレスシステムを使用できるようになる。夜雲は素晴らしいものを作ってくれたよ。」
「ええ。これで俺は──もっと強くなれる。そうすればもう……」
その手が握りしめられ、震える。
「もう、誰かのために……」
そこから先は、雷斗にも聞き取れなかった。しかし彼にとってはどうでも良いことだった。
実験台の思想や思考などどうでもいい。表面上だけ素晴らしい人間を演じれば、勝手に駒がついてくる。故に、他のことを気にする必要などなく、むしろ無駄なものだと、彼はそう考えていた。
「活躍を期待しているよ」
「必ずや、お応えします」
彼は出ていった。きっと夜雲の代わりにフェイスレスシステムのデータ取りに役立ってくれることだろう。
──まったく。幸運だ、私は。
雷斗はほくそ笑む。部下の替えは腐るほどいる。研究は全く持って順調だ。
神がかりと言っていいほどの天運が、彼に味方していた。
失ったものはあれど、手に入れたものはそれ以上だ。
少なくとも、今のところは。