振興
それから数日後。シオンは久々に感じるヒーローショーの仕事を終え、蕎麦屋「雪月花」でカツ丼をかきこんでいた。
「若いっていいねえ!その食べっぷり見てるとこっちまで若返りそうだ」
今日もショーのクライマックスで捨て台詞とともに爆発していた大取は嬉しそうに言う。今日は八百屋の玉ねぎを花壇に植えるという悪事を企んでいたが、いつもどおり阻止というシナリオだった。
「なんかここのところ腹減るの早くて……」
復活してから、妙に体がカロリーを欲していた。
食事の量は増えたが、体はむしろ引き締まった気がする。
これもこの間の「選ばれた」ときの影響だろうか。
「そっかそっか!よかったら蕎麦茹でるけどいる?」
「あ、いただきます」
「あいよー!」
威勢のいい返事とともに大取は厨房に戻っていった。昼の時間帯と夜の時間帯の境目の休憩時間なため、店内に客はいない。
数日前、目が覚めた翌朝。シオンが無断で休んでいたことを大取に侘びに行くと「賄いが溜まってるから毎日食いに来い」と言われ、現在に至る。昼の部が終わるのと同時にヒーローショー、そして賄い。
シオンは食費が浮いて有り難いが、大取の休む時間が減っていないか、それが少し気がかりだった。
ここ数日、雪月花はヒーローショー目当てに来る客により客足が異常なまでに増え、カツ丼用の肉と米の発注を大幅に増やしていた。当然忙しくもなるわけで、店内はいつもてんてこ舞い、シオンも微力ながら力添えしようと配膳を手伝うようになっていた。
「はいよ、そば一丁。あとこれ見せてなかったね。あげるよ。」
手渡されたのは蕎麦と、見覚えのある色と形のソフビ人形。
「これって……」
緑のボディ、輪のようになったバイザー。
「君だよ。こないだビデオ撮影したやつを見た会長がその日のうちに金型起こしはじめて作った奴。割と売れてる。うちでも在庫置くことにしたから。あ、ちゃんとシオン君にもお小遣い程度だけどお金入るからね。」
と、嬉しそうに大取は言う。
「へえ……」
シオンは人形をまじまじと眺める。手に馴染むサイズ感と、どこか懐かしい匂い、そして手触り。
「なんか……いいですね、こういうの。」
「だろ?かっこいいよねこれ。」
シオンは昔、祖母にねだって買ってもらったヒーローのソフビ人形を思い出した。
──あのとき憧れたヒーローに、いつしか忘れていた夢に……俺は今、なっているんだ。
あの頃の心の結晶のような人形を、シオンは慈しむように握った。