復活
怪物は足を蹴り出し、その足首を握るロムルスの手を振りほどく。
放り飛ばされたロムルスは地面に血の跡を残しながら転がり、怪物から数メートル離れたところで静止した。
「う……」
ロムルスは呻く。目眩はいっそうひどくなり、視界がちかちかと明滅した。全身が火箸を押し付けられたように痛む。
「ウウアアアアアアァ……」
立ち上がることすらできないロムルスの方に向き直った怪物は呻き、口を開ける。その顎が腹まで裂け、巨大な口となる。
ずらりと並んだ臼のような歯。生臭い息があたり一面に広がる。
その毛深く、筋張った腕がロムルスの首を掴み、大きく口を開けた──というよりは大きな口のようになった体の前に掲げ──
──クソ、怪物に食われて終わりか。締まんねえな。
せめて一矢報いたいと蒼は思ったが、指の一本すら動かせそうにない。
「ちょーっと待ったああああ!喰らえっ!」
突如緑色の閃光が怪物の横っ面に衝突し、吹っ飛ばす。怪物の手が緩み、ロムルスはどさりとぼろきれのように地面に落ちた。
「立てるか?」
ロムルスを救った、閃光のように見えたものが彼に手を差し出す。
「幻覚でも見てんのか、俺は……」
「本物だよ。またボロボロだなお前」
沈みかけた夕日に照らされ、立っていたのは緑の戦士、ジュピター──シオンだった。
「ああ、悪いな。しばらく立てそうにない……もうすぐタタラが助けを──」
「大丈夫」
ロムルスを遮り、シオンは言う。
「死ぬなよ、蒼」
「お前もな……」
蒼は地面に倒れ伏したまま答え、その手から力が抜ける。
『気絶してるだけだ、安心して』
チェンジャーから声がする。シオンは頷き、立ち上がった怪物を見据えて構えた。
「随分好き勝手やってくれたみたいだな。けど、それももう終わりだ」
「ウウウアアアアアァ……」
怪物は呻き、蹄のついた足で地面を数度引っ掻き──地鳴りのような音を立て、シオンに突進する。
「はあっ!」
シオンはその場から一歩も動かず、目と鼻の先に迫った怪物の頭を横蹴りで蹴飛ばす。
土煙を上げ吹き飛ばされたのは、怪物の方だった。
よろめきながら立ち上がったその左の角がひび割れ、砕けて地面にごとりと落ちる。
「昔の俺を──いや、そんなに昔でもないか──思い出すよ。力に溺れて、人を傷つけて……」
シオンは拳を構える。
「だから。お前がこれ以上過ちを冒す前に──止めてやらなくちゃいけない。これ以上、お前が後悔を重ねないために!」
『ウウウアアアアァ……』
怪物は頭を振り、苛つくように地面を掻いた。