荷物
「うああああああっ!」
錯乱するウプイリは、剣を力任せに振り回す。
空気を切り裂く鋭い音よりも速く、その切っ先が通り過ぎる音速の剣閃を、ロムルスは反射神経を超えた超感覚でやすやすとかわしていく。
何度も、何度も振り回される剣は、ロムルスにかすり傷すら負わせることはできず──次第にウプイリの動きが鈍り始める。体力切れのようだ。
何十度目だろうか。頼りなく振り回す剣の軌道を、ロムルスは蹴り上げてずらす。ギィンと金属音、そして火花が砂っぽい空気に溶けていった。
「とりゃあああああ!」
ロムルスは踊るように縦回転し、軸足を入れ替えた蹴りをウプイリに叩き込む。
「ぐっ……!」
黒い装甲が軋み、その胴がくの字に曲がる。
「まだまだぁ!」
ロムルスはくるりと回転──軸足を入れ替えた蹴り。黒いバイザーがひび割れ、ウプイリはよろめく。
「そこだぁ!」
ロムルスは回転の勢いを乗せた突きを放つ──ビシィ、と胸部の装甲が割れる──ウプイリは吹っ飛ばされ、地面をバウンドする。
「が……あっ……こんな……」
立ち上がろうとするその足が地面を滑る。力が入らない。
圧倒するはずだった存在に、逆に圧倒される屈辱。ウプイリは──夜雲は拳で地面を叩く。
「こんなこと──絶対にあってはいけないんです……私が……負けるなど……」
「負けるなんて──って、そう思ってる時点でお前の負けだよ。少なくとも条件が──強さが同じなら、性能頼りのお前じゃ俺にも、あそこで寝てるアホにも勝てねえ。ま、俺はあいつほど生易しくねえんでな。今後の面倒を避けるためにも、トドメはきっちり刺させてもらうぜ。」
ロムルスはウプイリを蹴り転がして仰向けにするとその腕についた剣をへし折り、切っ先を黒い装甲に覆われた喉に当てる。
「くっ……この勝負……一旦預けておきますよ……」
地面に転がったまま悔しげに言うウプイリの姿は黒い煙になり、風に流されて消えていった。
「フン、逃しちまったか。甘いな、俺も……」
ロムルスは剣を地面に放り投げると、シートを広げ直して怪物の死体を包みシオンとサテライトの所へ戻る。
「ほら行くぞ白いの。案内しろ。」
シオンを背負い、片手には銀色の風呂敷包みを持ったロムルスはサテライトに声をかけた。
「ああ、助かるよ。こっちだ」
立ち上がり、ふらつきながらも歩きはじめたサテライトのあとを、ロムルスは大荷物2つを抱えてついていった。