コンビニ
切れかけた街灯がチカチカと点滅する大通り。
うつむきながら歩く北村シオンの右側には、露出狂のメッカと呼ばれる森林公園があった。
こんな寒い日も露出狂は犠牲者を求めて徘徊しているのだろうか。
だとしたら彼らの恥じらいのなさと根性は相当のものだろうと、シオンは彼らを少し羨ましく思った。
──久しぶりの外だ。
シオンは冷たい空気を吸い込み、体の内側から冷えていくように感じ身震いした。
前家から出たのは5日前、それもゴミ捨てに行っただけだ。
まともな外出は三ヶ月ぶりくらいか。
目的地はコンビニだ。うっかり配送先をミスり、自宅ではなくコンビニ受け取りにしてしまったゲームソフトを回収しに行くため。
数ヶ月前、自分が引きこもる原因になったかつての職場に行くのは、シオンにとって憂鬱だった。
厚着にも関わらず寒さは服の隙間という隙間から侵入し、シオンの体温を奪っていく。
また街灯が点滅する。咳き込むように。
突如、がさがさと葉ずれの音が、公園の方からシオンに近づいてくる。
まさか露出狂か?自分に狙いを定めて…最後まで考える暇もなく、木の上から何かが跳躍し、シオンにぶつかった。
「うわっ!」
ここ数ヶ月まともな運動もせずなまった体は容易にバランスを崩し、手を少し擦りむいた。
「いってぇ…なんだよ…?」
振り返ったシオンの目にうつったのは、虎のような姿の化け物だった。シオンに気がついたらしき怪物は、体を低く構え唸り声を上げる。
「な、なんかの映画の……それともドッキリ?ははは。」
よくできた着ぐるみだ。
「そ、それじゃ急いでるんで……」と、怪物の横を通り過ぎようとしたシオンに、怪物は爪を振り下ろした。
「うわっ!?」間一髪で避けたシオンの頬を、生温い感触が伝う。
手で拭いまじまじと見ると、点滅する街灯が血塗れの手をちかちかと照らす。
「へ?」
頬に刻まれた傷が、目の前の虎のような生物は殺傷力を持った紛れも無い怪物であることをシオンに教える。
逃げようとするが、腰が抜けてへなへなと座りこむ。
怪物はシオンに近づくと、爪を振り上げた。
怪人名鑑#1爪タイガー
鋭い爪を持つトラの怪人。唸り声はなんとなく出ているだけ。