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第3話 ゴブリンとレオタの謎

「……いたぞ!」


 レオタさんの声で私たちは立ち止まります。

 彼が立ち止まった先には5匹のゴブリンがいました。

 辺りを警戒していますが、まだこちらには気づいていないようです。


「このまま不意を突いて一気に畳み掛けよう。アニスは魔法の準備を。セーナと2人で投擲武器持ちの奴を狙って欲しい。2人の攻撃が当たったと同時に俺とレオタさんで突撃する。セフィーリアは皆の後ろで怪我人が出た時に対応できるようにしておいて」


 カイさんが小声で伝えてくる作戦に皆で頷きます。

 意外にもちゃんと作戦を立てる人だったようで安心しました。

 誰にも何も告げずに突撃していくような方だったら、私の回復魔法だけじゃ治療が追いつかなくなるところでしたよ。

 私がそんなことを考えている間に、アニスさんの詠唱が終わっていました。

 彼女は私達に向けて小さく頷きます。


「……よし! 行くぞ!」


 カイさんの掛け声と同時にアニスさん達が攻撃します。

 アニスさんが放った火炎ファイアとセーナさんが打った矢が、見事投擲武器を持ったゴブリンに的中します。

 それと同時にカイさんとレオタさんがゴブリン達に斬りかかっていきました。

 ゴブリン達は狼狽えながらも立ち向かってきましたが、不意を突いた攻撃はゴブリン達の連携を乱し、大した反撃もできないまま倒されていきます。


「お前で最後だ!」


 カイさんが最後の1匹にトドメを刺し、怪我人を出すことなく戦闘が終了した――と思ったのですが。


「グキャキャ!」

「な、まだいたのか!?」


 戦っていた場所から少し離れた茂みから、1匹のゴブリンが顔を出しました。

 慌ててセーナさんが矢を放ちますが、ゴブリンはひょいと躱して茂みの奥へと逃げていきます。


「待てっ!」


 カイさんがゴブリンの後を追い駆け出してしまったので、私達もその後を追います。

 そのゴブリンはかなりすばしっこく、時々こちらを振り返ってはからかうような素振りをみせてきました。

 私はその行動に違和感を覚えます。

 そう、まるで敢えて追われているかのような……そんな感じの動きに思えてしまいます。


「待ってくれ、カイ殿!」


 レオタさんも違和感を覚えたのか、カイさんを呼び止めようとします。

 しかし、カイさんはどんどん先にいってしまい、レオタさんの声には気づいていないようでした。

 ゴブリンは森の更に奥――崖の麓まで逃げると、そこにあった洞窟の中へと入っていきました。

 もしかして、あれはゴブリンの巣穴でしょうか?


「よし、中へ入るぞ」

「えっ!?」


 思わず、声を上げて驚いてしまいました。

 私達は村人が目撃したゴブリンの群れを退治するというクエストを受けてきています。

 決して、ゴブリンの巣穴を探索するというクエストではありません。

 そもそも、洞窟に潜るための準備を一切してきていないので、不自由な戦いを強いられることになるでしょう。


「カイ殿、洞窟に入るのは待って欲しい。我々は洞窟に入る準備をしてきていない。ここは1度戻ってギルドに報告をした方が良い」

「いや、俺達に見つかったことでゴブリンどもがあの巣穴から逃げるかもしれない。そうなったら新たな被害が出てしまう」

「しかし、巣穴の中にどれだけのゴブリンがいるのかわからない。あの洞窟内では私の剣は振れないし、暗い中では遠距離の攻撃もまともに当てられないだろう?」


 レオタさんがそう言った直後、アニスさんが何かを呟くと彼女の杖が光りました。


「……発光ライトがあれば大丈夫」

「舐めないでよ。私、結構夜目が利くのよ? この位の光があれば充分当てられるわ」


 私は使えないので詳しくは知りませんが、発光ライトは確か、魔力消費が激しくて燃費の悪い魔法だと聞いたことがあります。

 それに、魔術師は杖を触媒にして魔法を放つので、基本的に発動できる魔法は一度に1つ。複数の魔法を発動するのは相当の技術が必要のはずです。

 アニスさんがどれほどの実力をお持ちなのかは知りませんが、まだEランクであることを考えると複数発動はできないのではないでしょうか?

 セーナさんの夜目が利く発言も、どこまで見えるのかが判断できません。

 だいたい、完全に真っ暗になってしまえば誰も動けなくなってしまいます。それはゴブリンも同じとはいえ、ゴブリンは仲間を犠牲にしても冒険者に攻撃をしてきます。自分の攻撃が仲間に当たるかもしれないと躊躇する私達とは違い、ゴブリン達は迷いなく攻撃してくるでしょう。


「彼女達だってこう言っているんだ。俺は巣穴に入ろうと思う。レオタさんはそこら辺に落ちている木の枝を棍棒代わりにしてついてきて欲しい」


 「何て横暴な!」と思いましたが、それを口に出す前にカイさん達は洞窟の中へと入っていってしまいました。


「レオタさん、どうしますか……?」


 レオタさんの顔が苦々しく歪みます。


「……本来であれば1度村に戻り、村人にギルドへの連絡を頼んだり、洞窟へ入るための準備をしたりしてから中へ入るべきなのだろう。だが、私は彼らを見捨てることができない」


 レオタさんの言いたいことはわかります。

 村で準備をして洞窟に入れば、私達の生存確率は上がります。

 しかし、それまでの間にカイさん達の身に何かあれば、助けることはできないでしょう。


「リリー殿はついてこなくても構わない。むしろ、私が自分の身を守るので精一杯になる可能性がある以上、非戦闘職である君にはついてきて欲しくない」


 言い方は淡々としていて、私を突き放すような印象を与えます。

 しかし、言葉の内容から、私の身を案じていることがわかります。


「ご心配ありがとうございます。ですが、レオタさんが行くと仰るのであれば私もついていきますよ」

「……何故だ? 君には何のメリットも無いどころか、最悪死んでしまうかもしれないというのに」


 確かに、私には何の得にもならない行為です。

 ですが、それは損得勘定でのお話。


「私が“人を助けたい”と思うのは、それが自分の得になるからではありません。私はそこに助けを求める人がいるならば、例え自分が死の危険に晒されても助けに行きます」


 きっと、勇者様ならそうするはずですから。


「……そうか。ならば止めはしない。だが、無理はしないでくれ」

「ふふ、大丈夫ですよ。いざとなったらメイスで撃退しますから!」


 そう言ってメイスを掲げると、レオタさんは眉を八の字にして、けれども口元には微笑みを浮かべていました。


「君は本当に……いや、何でもない。では、軽く準備をしてから行こう」


 レオタさんが太めの枝を手に取ると、その先に火が灯りました。


「えっ!? 今、何をしたのですか?」

「単純な火魔法だ」

「な、成程。レオタさんは魔法もお使いになられるのですね。でも、無詠唱で発動できるなんて……」


 普通、魔法を発動させるためには詠唱が必要です。それは、私達は詠唱によって魔力を変化させて魔法を発動させているためだと言われています。

 私が知っている中で無詠唱で魔法を使える人は、人類史上最も優れた魔術師と評される大賢者様と、生まれ持ったスキルによって詠唱せずとも魔法を発動できた勇者様だけです。


「……それについては何も聞かないで欲しい」


 レオタさんは顔をしかめ、それ以上何も言おうとしませんでした。

 彼は太い木の枝をもう1本拾うとそのまま洞窟へと歩き出してしまったので、私は何も聞かずついていきます。

 しかし、レオタさんは何者なのかという疑問が脳裏をよぎり、洞窟に入った後も辺りの警戒に集中できませんでした。

 だから、私はその不自然さに気付きませんでした。


「……変だな」


 ある程度進んだところで、レオタさんがそう呟きました。


「リリー殿。何か妙な影を見たり、不自然な壁を見たりはしていないか?」

「い、いいえ。私は見ていません」


 指摘されて思い起こしてみれば、この洞窟内は奇妙でした。

 私達はゴブリンに勘づかれないよう足音を立てないようにして進んでいたのですが、カイさん達はおろか、ゴブリンにさえ一度も出会っていません。

 それだけでなく、この洞窟内はずっと一本道で、隠し通路があるような気配もありません。


「嫌な予感がする。先を急ごう」


 そして、私達が駆け出した時でした。


「きゃあああ!」


 道の先から甲高い悲鳴が聞こえてきました。


「遅かったか!」


 レオタさんと私は走るスピードを上げます。

 レオタさんの方が圧倒的に速いため距離が開きかけましたが、目的地に辿り着く方が早かったためにそれは免れました。


「な……!」


 そこには目を疑う光景が広がっていました。

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