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第7話 港町の過去と復興

久しぶりの更新です

こちらの作品は不定期更新となりますが、なるべく早めに投稿できるよう執筆しております

何卒よろしくお願いします

 私とレオタさんが町を出てから、数日が経ちました。

 レオタさんの旅に同行することを許可していただいた後、準備もそこそこに私は半ば強引にレオタさんを連れて乗合馬車に乗り込んでしまいました。

 おかげでちょっと手持ちのお金が心許ないのですが……それでもこの町を堪能するくらいには残っていますし、どうにかなるでしょう。


「ここが港町メーアですか……!」


 乗合馬車から降りた私は、目の前に広がる光景に心が沸き立つのを感じていました。

 青い海の上にはカモメが飛び交い、海辺には屋台が立ち並び、大勢の人々で賑わっています。

 ここは観光地としても有名なので話には聞いていましたが、実際に見ると聞いていた以上の賑わいと美しい景色が広がっていますね。


「リリー殿。あまり離れるとこの人混みでは迷子になるぞ」


 私の後ろから、レオタさんがそう声をかけてきました。

 私はムッとして、彼の方を振り返ります。


「そんなことはわかってます。私はもう立派な大人なんですから、子供扱いしないで下さい!」


 レオタさんが目を瞬かせました。


「す、すまない。どうも、今の私はま……レオナードとしての感覚の方が強いみたいでな。君が随分と年下のように思えてしまうんだ」

「レオナードさんはお幾つだったのですか?」

「具体的な数字は覚えていないが……100は超えていたと思う。長く生きていると歳を数えなくなるから、あっているかはわからないが」

「へぇ……長命な種族だとは聞いていましたが……」


 周りに聞かれないようにコソコソと話しながら、私達は屋台が立ち並ぶ通りを歩きました。


「レオタさんは……というより、勇者様はここに来たことがあるのですよね?」

「一度だけだが。海から現れた巨大なイカの魔物――クラーケンを倒すためにな。その時はこの辺りも壊滅的な被害を受けていて、人が作ったもの全てが壊されていた。……もちろん、人も」


 当時のことを思い出したらしいレオタさんの顔が歪みました。


「で、ですが、クラーケンは無事に討伐なさったんですよね?」

「ああ。だが、倒した直後にこの海にクラーケンに成りうる魔物の存在を確認した。小さいうちは魔物というよりただのイカに近い存在だが、成長していくにつれ魔物としての性質が強まり、人々を襲いかねない魔物だった。けれども、発見した時にはもう既に一人では対処できないほど数が多く、地元の冒険者達にそれらの討伐を頼んで、勇者はここを去ったんだ」

「……もしかして、完全にクラーケンを倒せたわけじゃないと思って、後悔していらっしゃいますか?」

「……」


 黙り込んだレオタさんの顔を覗き込むと、彼の瞳は青紫色に揺れていました。

 私はそんな彼の手を取ります。


「リリー殿……?」


 首を傾げるレオタさんに、私はニッコリと微笑みました。


「レオタさん。この町の名物料理を食べませんか?」


 彼が、再び目を瞬かせました。


「……は?」


 明らかに困惑した様子のレオタさんをしり目に、私は周囲を見回します。


「屋台料理で一番人気のものなので、多分そこら辺を歩いていれば……あ!」


 私は目的のものが売られている屋台を見つけ、レオタさんの腕を引っ張ります。

 人混みを潜り抜けてその屋台の前に立つと、私は屋根にぶら下がった名物料理の名を指さしました。


「これですよ! この町の名物!」


 それを見たレオタさんの眉間にシワが寄りました。


「……クラーケン焼き?」


 レオタさんは戸惑いを隠せない様子でしたが、私は一先ず「クラーケン焼き」を買おうと屋台のおじさんに声をかけました。


「すみません! クラーケン焼き2舟下さい!」

「あいよ!」


 威勢の良いおじさんの返事と共に、舟の形に作られた器に丸く焼かれたクラーケン焼きが乗せられていきます。

 更にその上に黒い液体――クラーケン焼き専用のソースだそうです――と、フワフワした薄茶色のものをかけて、おじさんは私にそれを手渡しました。


「ふわぁ……! 上に乗ってるフワフワしたのが踊ってます!」

「そいつはカツオブシって言ってな。輸入品なんだが、クラーケン焼きに良く合うって評判なんだよ。ちなみに踊ってるように見えるのは温かいうちだけだから、そいつが踊ってるうちに食べてくれよ!」

「わかりました! ありがとうございます!」


 ルンルン気分でレオタさんの方を振り返ると、彼は訝しげにクラーケン焼きを見つめていました。


「その中から出ている足はまさか……」

「説明は後ですよ! 早く食べましょう!」


 私達はたまたま空いていたベンチに腰をかけ、クラーケン焼き1舟をレオタさんに渡しました。


「……やはり、見れば見るほど、クラーケンの足にしか見えないが」


 クラーケン焼きの中からはみ出ている吸盤のついた足を見て、レオタさんの眉間に深いシワが刻まれていきます。


「だって、本当にクラーケンですから」

「やっぱりそうなの!?」


 見開かれたレオタさんの瞳は青色に変わっていました。


「正確にはプチクラーケンという魔物なんだそうですよ」

「プチクラーケン……って、まさか」

「そうです。勇者様が発見された、クラーケンに成りうる魔物のことです」

「へー、そんな可愛らしい名前がついたんだ……じゃないよ! なんで魔物を食べてるの!?」

「私も詳しくは知りませんけど、討伐していた冒険者さんの一人がふざけて焼いて食べてみたら美味しかったらしくて、それ以来食材として使われるようになったみたいですよ」

「ええ……なんで食べてみようと思ったんだよ……」

「さ、さあ。でも、身体に害はないみたいですし、美味しいのも本当みたいですから。正直、私も初めて存在を知った時は驚きましたが、実物を見たらとても美味しそうだと思いませんか?」


 クラーケン焼きは、特製の生地にクラーケンの足をぶつ切りにしたものを入れて、一口大の球体になるようにして焼いたものです。

 ホカホカと湯気を立て、ソースの香りを漂わせているそれは、魔物を使っているなんて信じられないほど美味しそうです。


「……まあ、確かに美味しそうだけど」

「とやかく言うより、まずは美味しいうちに食べちゃいましょう!」


 私は付いてきた串を使ってクラーケン焼きの一つを口に入れました。


「あ、あひゅい!」


 焼きたてのためかクラーケン焼きの中は熱々になっており、私は危うく口の中をやけどしかけました。


「大丈夫?」

「は、はひ……でも、とても美味しいですよ」


 カリカリフワフワな生地と濃厚なソースの味わいが、プチクラーケンの旨みを引き立てています。

 口の中はまだ少し痛いですが、もう一つ口に放り込みたくなります。


「ちゃんと冷ましてから食べないとやけどするよ?」

「わ、わかってますよ!」


 私がフーフーと息を吹きかけて冷ましている横で、レオタさんもクラーケン焼きを口に入れました。


「本当だ。美味しいな」


 レオタさんは青い瞳を細め、クラーケン焼きを味わうように噛み締めています。


「……レオタさんが仰っていた通り、この町はクラーケンのせいで壊滅的な被害を受けました。でも、この町の人達は復興を諦めませんでした。このクラーケン焼きを含めて、プチクラーケンはその復興資金を集めるのに貢献したそうですよ」


 クラーケン焼きを冷ましながら私がそう言うと、レオタさんが驚いた顔をこちらに向けました。


「……もしかして、君はそれを伝えるために?」

「半分は自分が食べたかったからですけどね。でも、このクラーケン焼きがこの町の名物で、復興の象徴で――そして、勇者様との約束を今も守り続けている証だということを、レオタさんには知っていて欲しかったんです」


 未だにクラーケン焼きが売られているということは、まだプチクラーケンの数は減っていないのだと思います。

 でも、こうして出回っているということは、まだ討伐――いえ、捕獲作業が続けられているということ。

 あくまで目的に「食用として売るため」ということが追加されただけで、主目的は今も昔もクラーケンを再び生み出さないためでしょう。


「町の人達は感謝してるようですよ。クラーケンを倒して下さったばかりか、復興に貢献するプチクラーケンも発見して下さったんですから」

「プチクラーケンの活用法を見出したのは別の人物だよ」

「ですが、勇者様がプチクラーケンの存在に気づいて、それを討伐するよう頼まなければ見つけられないものでした」


 私はレオタさんに微笑みました。


「この町が今こうして賑わっているのは、誰が何と言おうと勇者様のおかげです。例え、勇者様自身が後悔なさっていても、この町の人達は勇者様に感謝しているということは変わりませんよ」


 その時、少し強めの風が吹きました。

 私はクラーケン焼きの上に乗っているカツオブシが飛ばされるかもしれないと、慌てて冷ましていたクラーケン焼きを食べました。


「君は本当に……」

「あつい!」


 冷ましていたはずのクラーケン焼きは中がまだ熱く、噛んだ瞬間に強烈な熱さが口の中を支配しました。

 私は慌てて水魔法で掌に冷たい水を生み出し、それを飲み干しました。


「ふう、危ない危ない。今度こそやけどしてしまうかと思いました……はっ! すみません、レオタさん。先程何と仰いかけましたか?」


 私が熱にやられる直前にレオタさんの声が聞こえた気がしたのですが、自分の叫びでかき消されてしまいました。


「……いや、大したことじゃないよ。本当に美味しいね、クラーケン焼き」


 ちょっと間がありましたが、レオタさんがまたクラーケン焼きを食べ始めてしまったので、それ以上聞くのは止めました。


「そうですね。これでもうちょっと冷めてくれれば有難いのですが」

「半分に割って食べればいいんじゃない? そうすれば中も冷めやすくなると思うよ」

「ああ、なるほど! 次はそうやって冷ましてみます」


 その後、私とレオタさんは今後の予定を立てながら、クラーケン焼きを食べ進めたのでした。

クラーケン焼きはたこ焼きをイメージしております

作者はたこ焼きを食べて熱くて舌をやけどしたことがあるので皆さんも気をつけてください

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