繋ぎ、繋がれて②
連休に入り、帰って来た琴葉が部屋の掃除を始めたのがきっかけだった。その時、かつてのわたしが無理矢理渡してあった本が返却され、中から、新品同然の封筒が見つかったのだ。
琴葉に気付かれる事無く回収出来たのは、押し付けられた時に本を開かなかった偶然による。所々が滲み、点々と雫の後が付いている便箋と、一緒に綴じられていた色褪せた花弁を、元入っていた封筒に入れる。わたしは『未来の弓削絆へ』と書かれたそれを、そっとポケットに入れた。
「……ん?」
震えるスマートフォンの画面に、新着メールの文字。表示に触れると、そこには高垣君からメールが表示された。
『絆さん、今日も昔の記録、見ますよね。どこで集合しますか?』
全てを明らかにする時が来たのかもしれない。わたしの家の近くの公園で、と短く返信し、身支度を整える。
一分も待たない内に再度スマートフォンが震える。どうせ了解の返信だ、内容を見るまでもないと判断して、それを手に部屋の外に出る。
「あ、お姉ちゃん。今日もお出かけ?」
頭にタオルを巻き、本格的な清掃をする装いの琴葉と廊下で会った。意外とキレイ好きらしく、こまめに掃除しているとお母さんから聞いている。
「うん。でも、今日は夕方、家具見に行くから早めに帰って来るけどね」
「あいあーい。気を付けてね、お姉ちゃん」
「ん、ありがとう。行ってきます」
琴葉が帰って来た日、わたしと両親が打ち解けた会話をした事に絡んで来たが、お母さんが怒って事なきを得た。嬉しかったから、と言う理由だったので無罪奉免となった彼女は無事に食後のデザートを獲得。楽しい夕餉の時間だった。
「あ、そうだお姉ちゃん。記憶失ってから言ってなかったかもだから、今言っとくね」
「なに?」
「大好き。血縁とか、同性とか。そんな面倒な理由抜きにして、お姉ちゃんが好き」
頭に巻いたタオルを解いて、真顔で言うわたしの愛すべき妹。微笑んで、わたしも想いを言葉にする事にした。
「……ありがとう。わたしも、琴葉の事好きだよ」
「うわー。絶対わかってない顔だそれ。前と全く同じ反応だもん。ま、いいや。じゃ、ちゃんと夜までには帰って来てねー」
つまらなそうにタオルを振り回しながら部屋へと戻って行く琴葉を見て、確かに思う。
あの夕餉の時間は、きっと今日も巡って来る。全く同じではないが、平穏無事に家族が過ごして居る。
その日常には、きっとわたしも必要なのだ。
だから、ここで因縁を断ち切ろう。
靴を履き、紐をキュッと締める。わたしは温かな世界から、また一歩を踏み出した。




