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/days.  作者: 成希奎寧
繋ぎ、繋がれて
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繋ぎ、繋がれて①

『おはよう弓削絆。それと、誕生おめでとうが正しいか。誕生日じゃないってのがミソだ。


 あたしは弓削絆。才色兼備のスーパーウーマンだ。冗談だ、本気にするな。


 この書き出しの意味は、お前が一番わかってるだろ、きっと。わかんなきゃ破棄して。


 さて、これが開かれると言う事はきっと、弓削絆は死を乗り越えたと言う事だな。


 めでたいにはめでたいが、あたしは死んでるって事だぞ。だからこれ、遺書なワケ。


 でも誰にも見せるなよ? お前はおとなしく、弓削絆としてあたしが築いたモノを自由に使っていていいんだからな。自分は自分だ、とか言って、台無しにはしてくれるなよ?


 いやまあ、それはそれで別に構わん。自由にやってくれ。一度きりの人生だ、過去の弓削絆に囚われず、やりたい様にやれ。だがせめて、あの二人だけは救ってやって欲しい。


 ユキちゃんとトモ君の事な。まあどうせ、未来のあたしがやるんだ、(つつが)なく終わってると願うよ。あたしの葬式は、二人が覚えててくれれば、それ以上は望まんよ。


 さて、本題に入ろうか。唐突だが、殺害予告状の送り主を特定して欲しい。誰かに漏らしたらそいつを殺すとか、最も古典的で有効な文面の手紙が弓削絆宛てに届いた。お前も弓削絆だから、漏らしても全く問題無いな。


 あたしは犯人捜しとか得意じゃなくてな、全知全能の頭脳を持ってしても、割り出す事は叶わなかった。すまない。あたしの命で勘弁な。なんちゃって。


 予告の文面は残せないから、書かれた事をわかりやすく纏めて置いてやる。感謝しろ。

美しい外面を傷付けずに。多分薬品とか、最低でも絞殺とかだろうな。少なくとも、遺体が激しく損傷する行為はしないハズだ。


 朝顔の種と共に魂を埋葬する。調べたら五月頃だった。凶行はその頃だな、多分。


 君を永遠な純潔のままで。うーん、あたしってどっか不純に見える? 見えないよな。


 幾度の呼び声にこだますら聞こえず。多分コイツストーカーだな。あたしの下駄箱に、差出人不明のラブレターがずっと届いててな。どうやって返せっつーんだ。悪い気はしてないけど。未だに色恋沙汰の経験ナシってのも、ちょっと恥ずかしいからね。


 まあこんな所だな。もし乗り越えたとしても、殺害予告状出して来た奴を取っちめないと、また同じ事繰り返す可能性高過ぎ。阻止るぞ、未来の自分よ。


 さて、これが本当に、あたしの最期の仕事になるかもしれん。


 んーと、頑張れ。やれば出来る子だから、弓削絆って。本人のお墨付きをやろう。


 あとは……家族を頼んだ。親友二人も、面倒見てやってくれると助かる。あいつらバカだからな。言うなよ、バカにしたって絶対言うなよ⁉ お前言ったらマジで呪うからな。




P.S.

 色々、押し付けてごめん。代わりと言っちゃなんだが、あたしの知識は多分残ってると思う。ずっと、

将来の――未来の自分の為にって勉強して来たから。役に立つハズだ。


 この生命の記憶とやらだが、意外と良く出来ている。所持者が自分の為に使用すると、痕跡と共にこの世から消える仕組みなんだろう。あの代償の品々を見て、思い付いたんだ。


 ただ気になるのは、父方のばあちゃんに確認したが、父さんの本棚事件で発動した時の事だ。ばあちゃんはその場に居たが、変な夢を見た事しか変化はなかった。

 つまり、他人の所有物は代償の範囲外になるみたいだ。恐らく、他者に使用者の死を知らせない為だ。あたしはこれを利用して、色々な策を練った。後はお前が良く知る内容だ、割愛するよ。


 まあ実際、何がどう言う理屈で死を免れるかまではわからなかった。事象例なんてほぼ無いし、証言も無かったからな。だがこれは、対象者が死ぬ瞬間は誰も覚えていない事実の裏返しだ。死の瞬間を示唆する状況が歪み、無かった事になると考えられる。

 だが、父さんのケースで、本棚が倒れた事実は変わらなかった。何かしら、歪みから取り残される部分があるのかもしれないが、詳細は不明だ、結局ぶっつけ本番になる。


 でも、全身麻酔と同じだ。原理が完全にわからなくても、使えるモノは使うしかない。


 やってもやらなくても結果が同じなら、やってみる。そうやって人類は生きながらえて来たんだ、あたしもやるしかない、そう思って全てを賭けた。

 これが残って、あたしじゃない弓削絆――お前が読んでいると言うのなら、あたしは賭けに勝ったって事だ。


 あと、どうしようもなく暇だったらで構わないが、この手紙と一緒に挟んでいるアサガオの送り主を見付けて欲しい。

 脅迫状の朝顔ってワードで、懐かしくなってさ。中学が同じだったんだが、高校はどこに行ったかわからない。正直無理ゲーだってわかってるから、適当でいいや。どうせあたし死んでるし、何を話せばいいかもわからんし。


 一回声を掛けた程度なんだが、なんか妙に頭に残っててな。花なんて植えても食えないし、興味無いケド、アサガオはその思い出補正があるから好きなんだ。運命って言葉、割と好きなんだよ。悪いか? 悪くないよな。お前ならそう思ってくれるだろうと信じる。 


 ……まあ、その、なんだ。ホントは、ちょっと怖い。死んだら、どうなんのかなって。


 でも、生物は皆、いつか死ぬんだ。その為に準備出来ただけ、ありがたいんだろうな。


 だから、別に予告状をだした奴を恨んじゃいない。もし犯人見つけたら、ついでに言っておいてくれ。勿論、皮肉たっぷり込めてな‼ 


 ……お前は弓削絆だよ。あたしじゃないけど、同じ名前で、同じ所に立ってるんだから。


 最期まで、歩いて欲しい。あたしには出来なかったけど、お前なら出来ると思う。


 お前がやりたい事やって、楽しかったって思いながら、こっちに来るのを待ってるよ。


 土産話ぐらい用意しておいてくれよな。後は全部……よろしくお願いします。


 過去の弓削絆より』


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