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/days.  作者: 成希奎寧
決別と継続
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決別と継続⑥

「……つかれた」


 ようやく訪れた放課後。わたしは机に伏せ、一日を振り返っていた。


 朝は『なんで目が赤いの?』等質問責めに遭い、昼はご飯たくさん食べるねと絡まれ、授業中は教師の面々からかわいそうな目で見られ、正直散々だった。


 わたしがわたしでしか無かった頃だったらきっと、耐えられなかっただろう。その意味でも、務めを文字通り最期まで果たしてくれた二人に感謝したい。


 授業の内容は、休んでいた時の部分こそわからなかったが、仁科さんのノートの助力でなんとかなるレベルだ。基礎や高校二年までの学力には問題が無い様で、一安心出来た。


「随分お疲れみたいだね」


「疲れた時には甘いモンって相場は決まってらぁな。茶しばきに行こうぜ、弓削!」


「約束してたんだ。全部上手く行ったら、トモ君が奢るって」


「しかも事故が起こった日にな。こんなにすぐだとは思ってなかったけど……ま、嘆いても仕方ないやな」


 声を掛けてくれた二人の為に身体を起こし、わたし達は教室を出ようとしたのだが。


「あ、仁科ちゃんに友山君。昨日、午後の授業サボったでしょ?」


「ぐえっ」「きゃっ」


 にっこりと笑む五十嵐先生に首根っこを掴まれ、立ち止まった。


「今なら私が話を聞くだけで済むんだけど……荒本先生にお願いしようか?」


「「……勘弁して下さい」」


「と言うワケで、悪いんだけどお茶は今度にしてね。さ、行くわよ罪人共‼ 粛清の時だわ‼」


 命乞いやわたしへの謝罪を零しながら五十嵐先生に連行される二人を見送り、今後の予定を考える。


「……?」


 ポケットに入れていたスマートフォンが鳴動する。どうやらメールが届いた様だ。


「……はあ」


 新着メールが四通となっている。実は朝の時点で三通となっていたのだが、メールどころでは無かった為放置していた。


 アプリを起動すると、吐いた溜め息の裏返しの様に高垣健太郎の列挙が表示された。しかし、その中の一通――それも最新の一件に弓削琴葉の文字を見付けた為、優先的に開く。


『ハローお姉ちゃん‼ そろそろゴールデンウィークだね。また帰るから、一緒に遊ぼうね‼』


 琴葉からのメールを見て、一気に現実に引き戻された気分だった。


 二人が抱えていたモヤモヤや、かつてのわたしの願いは叶えた。

 しかし、当初の目的はどの様に果たせば良いのかはわからずじまいだ。


 存在を続けて行く事は当然やぶさかではないのだが、記憶が戻らなければ家族の苦痛は癒えない。


 しかし、彼らの様にわたしの事情を知らないのだ。全てを明かすワケにもいかないだろう。

 わざわざ死を伝えて余計に悲しませる等、本末転倒も良い所だ。


 彼女の計画には、家族の事と一切関わりが無かった。恐らく理由あっての事だとは思うのだが、少し無責任ではないかと思ってしまう自分が居る。

 かつての自分に言っても仕方ないかもしれないが、思うモノは思うのだ。


 今後の動向に頭を痛めながら、メールに対して、『わかった』と拙い指運びで返信をした。その流れで画面を閉じようとしたのだが、残り三通のメールが気にかかる。


 昨日は夜に近い夕方から、きっちり限度の三通も届いていた。にも関わらず、今日これまでは一通も高垣君からメールが来ない。


 勿論ストーカーの被害者としては喜ばしい事なのだが、急に音沙汰が一切無くなると言うのは逆に恐ろしい。


 特にわたし達三人の仲の良さを把握しておきながら、まだ記憶喪失から間が無い状態で野放しにするだろうか。


 もしわたしが同じ立場であれば、元通りになる前に行動を起こすだろう。そして、自分の居場所を割り込みで作っておこうと考えるのだが、やはり人それぞれなのだろうか。


 あのバカップル曰く、わたしは行動も頭の回転も『はやい』らしいから、あまり参考にはならないのかもしれない。


「……って、朝の話を思い出してどうする……ん?」


 そう言えば、あの出来事はホームルームが始まるよりも早い時間に起こっている。だと言うのに、廊下に繋がる引き戸を友山君が気にしていた様な……。


「……まさか、ね」


 念の為に、届いていたメールを古い順に確認する事にした。


『絆さん。連絡先の交換、ホントにありがとうございます。一生大切にします』


『明日、よろしければ一緒に登校しませんか? 朝何時でも構わないです』


『すみません、夜遅かったですね。絆さんは早くに寝ると知ってるので、気にし』


 最後の文が途切れている……まさか律儀に百文字制限を守るとは思わなかった。

 ただ、肝心な部分が省かれていないだけ良かっただろう。


「……はあ。高垣君、どうせ近くに居るんだよね? 出て来なよ」


 下校時間を迎えた廊下は人が行き交っている。その中で、物陰からゆっくりと顔を出した癖毛頭――高垣君の、動揺しきった瞳がわたしを見つめていた。



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