表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

第八話 父の決意



第八話「父の決意」




ドギヤ国ゼーガル州ゼーガル中心街。そこから少し離れた所にある城に一人の門番が慌てた様子で入って来ては言った。


「王様!王様!王様ー!」


「何事だ!何度も呼ばなくとも聞こえてるぞ!」


王座に座り、セン・クリスダルは少し苛立ちを見せながら言った。


「は!城の門の前に王様に会いたがっている者がおられるのですが…早急に王様と話がしたいと!」


「何者だ、名は?」


「ヌト・パーカーと名乗られています!」


「…ヌト、パーカーだと…?」











ハランはゼンの所で朝食を済ませ、自分の家に帰ると玄関の前で愛犬のルゥがハランの帰りを待っていた。


「ルゥ、ただいま」


ハランは靴を脱ぎ部屋に入るとルゥの頭を優しく撫でる。静かな部屋に時計の針の音だけが響き、どこか寂しさがこみ上げてくる。


「…父さんが言ってた確かめたい事ってなんだろう…ルゥ、わかる?」


ルゥは目を瞑りながらも耳を動かしハランの声を聞いている。


「わからないよね、僕にもわからない…」


すると、家の扉を叩く音がした。


「誰だろう?」


ハランはすぐさま玄関の扉を開けると、そこにはセデラル街の医師ドミニク・ハウゼンがいた。


「ドミニク先生!?」


「ハラン、ちょっと良いかな?」




ハランは少し驚いた様子で頷くとドミニクを家の中に入れた。そして、二人は居間のソファに座るとハランは恐る恐る聞いた。


「…先生、もしかしてレオンに何かあったの?」


「いやいや違うよ、突然で驚かせて悪かったね…ただ、ヌトからハランには話さないでくれと言われたが、やっぱり言っといた方が良いかと思うてな」


「もしかして、父さんのこと?」


深く頷くとドミニクは少し間を開けて再び話し始めた。












「…息子が?」


書斎の部屋で沈黙が続くなか、センは深刻な表情でヌトを見た。


「あぁ、もう覚悟は決めてるんだ!レオンの為に心臓を提供してくれる人を探す!」


センの前に立つとヌトはそう言い放った。それを聞いたセンは少し間をあけて言う。


「…探す?何年かかるか分からんぞ、ヌト」


「直ぐに見つかる訳じゃない事は分かってる…世界中を探したって何年経っても見つからないかもしれない…」


「分かってるなら…」


「でも、俺に出来ることはこれしか無いんだ!

息子を、レオンを助けるには何もしない訳には行かないんだよ!」


ヌトの握りしめる拳は自然に強くなる。





センにも五歳の誕生日を迎えたばかりの息子がいる。ヌトが言う気持ちは分からなくもなかった。だが、だからこそセンは真剣な眼差しで言うヌトに問う。


「だが、貴様が故郷を離れてる間に息子に何かあったらどうする?」


「それは…!」


ヌトは言葉を詰まらせると唇を噛み締める。


「もっと現実を見ろヌト、貴様は故郷に戻って残り短い時間を息子達と一緒に過ごせ、その方が良いだろう…」


そう言うとセンは続けた。


「…故郷で一人待っているハランにとってもな」


そしてセンはヌトに背を向けその場を立ち去ろうとした、その瞬間。





「…五人の勇者を探す」


そう呟いたヌトの言葉に驚いた表情をするセンは振り返りヌトを見る。


「今、何と言った…?」


「実は…今日来たのは確かめたい事があって来たんだ!もし、レオンに心臓の提供者が見つからなくて間に合わなかったら…」


センの目を見て話していたヌトは視線を外し下を向いた。


「…最悪の場合、五人の勇者を集めて神の心臓の封印を解く、そしてその神の心臓をレオンに封印させる」


馬鹿げた事を言うヌトに少し苛立ちを覚えながらセンは言う。


「貴様、正気か?それこそ無謀だぞ?何処にいるかも分からない勇者達を一人で一、二年なんかで見つけ出せるものか!」


「だから、センにも探すのを協力して欲しいんだ!」


「…ふざけるな」


怒りを通り越して呆れた様子でセンは言った。





「分かってる!王は国を離れる事は出来ない!それに今、東のゼーガルが荒れていてそれどころじゃないのも分かってる…」


「…それに、例え五人見つかったとしても神の心臓をレオンの体に封印させるのが成功するとは限らないのも、分かってる…けど!他に方法は無いんだ…!」


とヌトは腰を下ろしセンの前で土下座をする。


「顔を上げろ、ヌト」





流石に王様のセンでも旧友の土下座姿は見たくはない。だがヌトは首を横に振る。


「そんな簡単に諦めたくないんだ……お願いです!王様!」





センはこんなに必死になるヌトを見たのは初めてだった。土下座をして己のプライドを捨ててまでも守りたいものがある。

王の座になった今、王として生き過ぎていて一人の人間として、父親として生きる事を忘れていたかもしれない。




そして、深い深い溜息を吐いたセンは言った。


「何をすれば良い…」


予想外の言葉に思わずヌトは顔を見上げる。


「…協力、してくれるのか…?」


いつまでも土下座しているヌトをセンは無理矢理に立たせる。そして少し嫌そうな顔しながら言った。



「…だから、俺は何をすれば良いんだ?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ