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第七話 帰る場所



第七話「帰る場所」




ヌトとハランの二人が診療所に戻ると腰掛けにはアラナとゼンが座って待っていた。


「アラナ、起きてて大丈夫なの?」


ハランはすぐさまアラナの元に駆け寄る。何も言わなくてもアラナは大丈夫だって頷いて少し微笑んだ。すると、ドミニクと助手のカレンがやってき来ては言った。


「アラナもルゥも重度の怪我じゃなくて良かったわ、ただ一ヶ月は安静にしてね!」


「えー!一ヶ月もかよ…そんなの…」


わかった?とカレンは上からアラナを見下ろすように目で圧力をかけている。顔は笑っているが目が笑っていなかった。


それを感じとったアラナはすぐさま、はい…安静にします…と言った。

そしてハランは足元で大人しく眠っているルゥの体を優しく撫でながら言った。


「ルゥも安静にするんだよ?」


すると、ルゥの垂れた耳はハランの言葉を聞くかのように少し動きハランは思わず微笑んだ。

そして、帰り際にドミニクが言った。


「ヌト、レオンはしばらく此処で様子を見よう」


「はい…ドミニク先生、レオンをよろしくお願いします!」


とヌトは頭を下げる。するとそれを見たハランも慌てて頭を下げる。


「ヌト、ハランも頭を上げてくれ…」


とドミニクは言うと二人の顔を上げさせる。


「そうですよ!私も先生も全力でレオンくんをサポートします!」


とカレンは全力で拳を上げ言った。


「ありがとうございます…!」










そして、ヌトが再びセデラル街を出てから数日が過ぎた。


セデラル街の朝の散歩はいつも愛犬のルゥと一緒だが、ここ最近ルゥは怪我をした。

だからそれが回復するまでルゥとの散歩はお休みだ。


ハランは一人セデラル街を歩き、ゼンがやっている店イチゴイチエへと続く坂を登る。そしてイチゴイチエに着き、店の中に入ると毎度の事ゼンがコーヒー豆を挽く音と香りがした。


「おはよう、ハラン」


とハランに気づいたゼンは言った。


「おはよう!ゼンさん、アラナの体調は?」


とハランはゼンに挨拶をしてからカウンターの席に座るとすぐさまアラナの体調を聞いた。


「まだ一人じゃ動けないから安静に過ごさしてるよ、本人は早く動きたくてウズウズしてるみたいだけどな」


と言うとゼンは鼻で笑った。そして、アラナの様子を見に行く為に席を立ったハランにゼンは朝食を持って行くよう頼んだ。

するとハランは、うん!と返事をしアラナの部屋がある二階に上がって行った。








アラナの部屋の扉を二回ほど叩くとハランはアラナ、ご飯持って来たよ!と言って部屋の扉を開けた。

するとそこには落ち込んだ表情でベッドの上に座っているアラナがいた。アラナが見つめる先には手に持っている一通の手紙だった。


そしてハランに気づいたアラナは視線を手紙から外し、よ!ハランと言っては少し寂しそうに微笑んだ。



「最近、父さんからの手紙が届かないんだ…」


と言うとアラナはまた手紙を見る。


「え、でも…こないだの手紙にはセデラルに来るって…!」


「うん、書いてあった…いつかは書いてなかったからわからないけど、その手紙が来てから父さんからの手紙は一枚も来てない…」


とアラナは一息つき言った。


「何か、あったのかな…」


ハランは落ち込むアラナを見ては少し考えていた。






自分には小さい頃から両親が側にいてくれた。アラナの父と同じく冒険家のハランの父も、たまにしか故郷には帰っては来ないが、その分母が何時もハランの側にいてくれた。側にいて愛情を注いでくれた。それだけでハランは幸せだった。

けど前までは分からなかったが母を亡くした今、ハランは思うことがある。


何か心に穴が空いたような、その穴は他で埋めようとしても埋められないような、寂しさなのか不安なのかなんとも言えない、そんな気持だった。

今、アラナの気持ちはどうなんだろう。僕と同じこんな気持ちなのかな…。ずっと両親と離れて過ごしているアラナの気持ちはこんな気持ちなのかな。


ハランはそう考えながらアラナを見ていた。







そして、突然アラナは顔上げると言った。


「…なんか、俺らしくないな!」


な?と言ってアラナはハランに笑顔を向ける。


「え?うん…そうだよ!アラナらしくない!」


とハランも笑顔を見せる。


「だよな!何かあったかなんて、まだ分からないことを考えているだけ無駄だな!今は体を早く治さないと、じっとしてるなんて俺の性に合わないからな!」


とアラナは手紙をベッドの近くにある手紙入れにしまい、ハランが持って来たご飯を食べ始める。


そう強気に言いながらもどこか寂しそうなアラナの表情にハランは何も言葉をかけてあげられなかった。












そして、しばらくしてハランはゼンがいる一階に降りた。

すると、もう開店している店の中には客がちらほらとやって来ていて、ゼンが作る料理を美味しそうに食べていた。


「ありがとうハラン、ハランも腹空いてないか?」


とゼンは二階から降りて来たハランに気づくと言った。


「うん、お腹空いてる!」


と言うとハランはカウンターの席に座り、先から店内に漂う美味しそうな匂いにハランのお腹が鳴った。そして、ハランの大好物のカレーライスが目の前に置かれた。


ハランは手を合わせ、いただきます!と言うとスプーンを手に取りカレーライスを掬っては口に運ぶ。おいしい!とハランは笑顔で嬉しいそうに言った。


「そうか、それは良かった!」


とゼンは美味しそうに食べるハランの姿を微笑ましく見ていると、ふと数日前の事を思い出していた。















「本当に、今日出るのか?この街を…」


「あぁ、ハランにはまた寂しい思いをさせてしまうって事は分かってる…」


「…なら、息子達の側に居てやれ」


「俺だって、居れるならハランとレオンの側に居てやりたい、けどこのままじゃ…!

ゼン、お前も聞いただろう?レオンの命は長くない、もしかしたら二年後いや一年後の命かも知れない…」


とヌトはゼンが淹れてくれた目の前のコーヒーを見ながら言う。


「…クララが自分の命にかえてでも守ったレオンの命を救える可能性が少しでもあるならば…俺は何だってする」


「…で、どうするつもりなんだ?」


「少し確かめたい事があるんだ…」


「確かめたい事?」


「あぁ、その為にまずはドギヤ国の王セン・クリスダル王に会ってくる」




そう言ってヌトはコーヒーカップに入っている半分のコーヒーを一気に飲み干した。




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