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第三話 五人の勇者



第三話「五人の勇者」





ドギヤ国の王の息子、ノアの誕生祭から三ヶ月が過ぎた頃だった。穏やかな朝のセデラル街をハランとヌトは愛犬のルゥと共に散歩していた。


波打ち際を歩く二人は砂浜に腰を下ろすと、ここで最期を遂げた神の体が海の底に眠っていると云われている、最期の海を眺めながらハランとヌトは話しをしていた。



「父さん、神ってどんな人だったの?」


ハランはヌトに聞いた。


「んー…父さんも実際に見たことが無いから詳しくは分からないが、伝説によると神は俺達にはない物を全部持ってるらしい」


「ないもの…て、何?」


「空を飛べる羽が生えてたとか、海を泳げるような大きな水掻きがあったとか、皮膚が分厚くて硬いから火にも刃物にも銃にも強いとか、そして視力と聴力も人よりも優れているらしい」


「すごい…!でも、神って人間なの?」


「さぁな、人かもどうかも分からない…それに、皆が皆見えるわけじゃないとも云われている」


「え、どういうこと?」


「見える者には見えるんだと、信じる者には見える、て良く俺の父さんが言ってたな」


「そうなんだ…信じる者には見えるか…」



ハランがそう呟くと突然、隣から赤ちゃんの鳴く声が聞こえた。

それは、ヌトが抱っこ紐で赤ちゃんを抱っこしているからだ。


「ほらほら、レオン泣くな!」


ヌトは立ち上がり赤ちゃんのレオンを泣き止ませるために体を上下に揺らしあやす。


「どうしたんだ、レオン?」


なかなか泣き止まないレオンにヌトは困惑していた。ハランもレオン!と名前を呼びながらあやすが、一向に泣き止まないレオン。


「困ったな…」


「父さん、困った時はゼンさんだよ!何でも知ってるから!」


「良し!ゼンが居るイチゴイチエに行くぞ!」


「うん!」


ハランは大きく頷くと二人は歩き出す。困った時は大体の事はゼンを頼る似た者同士の親子。










イチゴイチエは、ゼンがやっている喫茶店の名だ。坂の上にあって、坂から見える夕焼けはセデラルの街の人々達の誰もが絶賛するほど美しい景色だ。ハランもこの景色が世界一大好きだ。


まだ開店していないイチゴイチエに着くと、何やらゼンが真剣な表情で誰かと話していた。

その誰かは後ろ姿で顔が見えない。そして、その誰かはカウンターの席でコーヒーを一口飲むと、二人に気づいたのか、こっちを振り向いた。


「驚いた…」


ヌトがそう言うと、隣にいたハランも驚き過ぎて口が開きっぱなしだった。


「なんだ、親子揃ってそのアホ面は」


そう腕を組んで言うのは、このドギヤ国の王様、セン・クリスダルだった。


「父さん…なんで、王様がここにいるの?」


ハランは目を丸くして言った。


「自分の故郷に帰って来て何が悪い」


「故郷…セデラルが?王様の故郷?」


「あぁ、そうだ…ヌト、貴様は息子に何も話してないのか?」


「……あぁ、まだ」


「父さん…王様と知り合いなの?」


ハランは話の内容が読めなくてヌトとセンを交互に見る。そして、センは席を立ち上がり言った。


「まぁ良い、今話さなくてもいずれ分かることだ」


ますます分からない、という表情を浮かべるハランはヌトを見つめる。レオンはいつの間にか眠ってしまっていた。ヌトはレオンをそっとソファに置くと言った。


「分かった、今から話す…全てを…」



ヌト、ハラン、セン、ゼンはカウンター席ではなくテーブル席に移動して話し始める。

すると、たった今起きて来たのかアラナが寝癖をつけて入ってきた。


「……だれ…?」


偉そうにソファに座っている人を見てアラナは言った。

アラナ!ドギヤ国の王様だよ!

ハランは慌ててアラナの側に行き、小声で注意をする。


「………?」


それでも、理解できてない様子のアラナにヌトとゼンは、ほぼ同時に笑った。


「さすが、エドの息子だな!」


とヌトは手を叩きながら爆笑している。そんなアラナの様子を見て呆れたのか、センは溜息を吐く。


「まぁまぁ、アラナはまだ子供だしな!分からないことも多い」


ゼンは笑いながら言うと、アラナの肩を軽く叩く。


「なんだよ、バカにしてんのか?」


アラナは馬鹿にされてると思い眉間に皺がよる。


「まぁ座れ、小僧」


センは、アラナを指差しながら言った。

指図されるのが嫌いなアラナは少し不機嫌になりながらも、センと向かい側のソファに座る。


「なに、なんか始まんの?」


アラナは隣に座るハランに聞いた。し!静かに!ハランは小声で今から話そうとしているヌトを見ながら言った。


「ハランとアラナ、今から二人に話さないといけない事がある」



ヌトの真剣な表情に緊張が走る。


「もう、二人は気づいてるかも知れないが俺と此処にいるセンの先祖は昔から伝わる、あの伝説に関わった人だ」


「あの伝説て…」


「本当に、あったんだ…」


ハランとアラナは驚いた表情になる。


「あぁ、そして今此処にはいないが俺達の他に後三人いる。アラナ、お前の父親エドワードの先祖もその一人だ」


「父さんが…⁈」


アラナは思わず前のめりになる。


「神が殺されたあの日、俺達の先祖は神の魂を受け継いだ」


「じゃあ、父さん達の先祖が神の心臓を封印した、あの伝説の五人の勇者なの⁈」


ハランもアラナ同様、テーブルに両手をつき前のめりになる。落ち着け二人共とゼンが前のめりになる二人をソファに戻す。そして、ヌトは話を続ける。


「そうなるな、言うのが遅くなって悪い。俺達の先祖は神から魂を受け継いだ後、風、雷、地、火、水のどれか一つの力が操れるようになった。

この腕輪に付いている石に魂が宿り、力を操っているんだ。誰もが操れる訳じゃない神に選ばれた者だけが操れる力なんだ。そして俺達も先祖と同じ血が流れているから操れる事が出来る…だか最近、力が弱くなりつつある」


ヌトはそう言うと、腕輪をテーブルの上に置いた。


「…?」


「そしてハラン、お前は俺の子だ。俺と同じ血が流れている。だから、お前にも操れるはずだ。力を受け継いでほしい」


「僕に、そんな力ないよ」


「大丈夫、直ぐ操れなくても特訓すればできる」


ハランはヌトから腕輪を恐る恐る受け取った。ハランは三ヶ月前にこの腕輪を付けて迷いの森に入って以来、この腕輪には少しの恐怖心を抱いていた。



「その力をまた使う時が来るかも知れんからな…」


とセンが呟く。そして、少しの沈黙が続きセンは再び話し始める。




「……今日、ここに戻ってきた本当の理由は、今ドギヤ国の東の方がある事によって荒れている」


ゼーガル州が…ある事って?とゼンが言う。


「昨夜、城にゼーガル出身で自分は神の子だと名乗る者が現れた。其奴は何故か神の心臓がここセデラルの迷いの森にある、あの湖に封印されていることを知っていた。

セデラル出身の人々なら心臓が湖に封印されていることは知っている…だが、湖は一つだけではない何ヶ所か森の中に存在する。それを知っているのは我々、神の魂を受け継いだ者とゼンだけだ」


「だが、其奴は何故か神の心臓が封印されている湖をを知っている…何故だ…?」


とヌトは手を顎にあて首をかしげて言った。


「まだ詳しくは分からんが…其奴が心臓を狙っている事は確実だ。今、セデラル全体に兵を多く率いて其奴を探している、もし何かあったら連絡をくれ」




そしてセンはソファから立ち上がり、扉の方へと歩く。扉を開けると扉の前に待機していた二人の兵と共に帰って行った。












ハランとアラナは秘密基地に行く途中、ハランは少し俯向きながら淡淡と話し始めた。


「もしかしたら、三ヶ月前に僕が…迷いの森に入ったから…神の心臓を手に入れようとしたからだから、そのせいで神の子だって名乗る人に心臓の在処がばれたの?」


ハランは今にも泣きそうな表情で言った。


「心配するなよ、この事は昔からずっと続いてるんだ、今に始まった事じゃない」


アラナは今にも泣き出しそうなハランを慰めるかのように言った。


「でも、あの時アラナの言う事を聞いていたら…こんな事には…僕のせいで、また争いが起きてしまう」


ハランの少し前に歩いていたアラナは突然立ち止まりハランの方を振り向いた。


「もし、そうだとしても俺も初めは賛成してハランに協力してたんだ、俺も同じだよ!だから、あまり自分を責めるなよ…いいな?」


とアラナはハランの両肩に手を乗せハランに言い聞かせる。ハランは頷くが、自分のした事の重大さを感じていた。




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