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第一話 セデラルの街

人生で初めて作った物語です。


第一章 perfect world END〜少年の誓い〜



第一話「セデラルの街」



ここはドギヤ国南にあるハヌル州セデラル街、そこに住む八歳の少年ハラン・パーカーは、愛犬のルゥとともにまだ薄暗い早朝のセデラル街を散歩していた。



いつもの散歩道を歩くハランとルゥはまだ開店していない商店街を通り抜け、駅の近くにある噴水広場を通る、そして下り坂を歩くとそこから海が見えてくる。すると突然に愛犬のルゥが立ち止まり何か言いたげにハランの顔をじっと見つめているのに気づいた。



何時もの事だと分かっているハランは軽く準備運動をしてると、ふと靴紐が解けそうなのが見えた

ハランは結び直そうとしゃがみこむとルゥが早く早くと吠えては急かす。



「わかったから、ちょっと待って…」



と靴紐を結び直し立ち上がろうとした瞬間、待ちきれないルゥは突然走り出した。



「うわ! 」



ハランは躓きそうになりながらも、ルゥの首輪に付いている紐に引っ張られるようにして走り出す、ルゥは何時も下り坂から砂浜までを激走する。



砂浜に着くとルゥはハランの周りを飛び走り嬉しそうに尻尾を振りながら吠える、疲れたのかハランはその場に座りこむと息を切らしながら言った。



「ルゥ、急に走り出したらダメだろ! あぶないよ! 」



ルゥは走るのが好きで尻尾を振りながら、もう一回もう一回と必死にハランの周りを飛び跳ねてはクリーム色した毛に大型犬のルゥは機敏に動き回る、それが可笑しくてハランは笑いながら



「わかった! もう一回やるから少し休憩。」



と言うとルゥの頭を撫でる、そして砂浜の上で倒れるように仰向けになるとハランは深呼吸をして息を整えては藍色の瞳をゆっくりと瞑る。

すると先まで尻尾を振り飛び跳ねてたルゥがハランの隣に大人しく座り、ハランの様子をじっと伺っていた。






瞳を閉じて耳をすますと渡り鳥の鳴き声が聞こえる、生暖かい潮風が吹いてはハランの肌に触れ、ヤシの木々が揺れる音、そして波が波打ち際で寄せては返す音が、雑音などないこの早朝のセデラル街に自然の音だけが響き渡る。




潮風の匂いを感じながら、ハランは瞑っていた目を開けて上半身を起こすと、ちょうど朝日が顔を出し始めるところだった、朝日の眩しい光がハランとルゥを照らし、さっきまで薄暗くて色が分からなかったこの街に、まるで朝日の光が色をつけていくように昇る。




ハランはその場を立ち上がり海に向かって両手を合わせ、この海に眠る神の身体に祈りを捧げた。














ここドギヤ国は四つの州に別れている、北からカナンダーラ州、東のゼーガル州、西のミランダ州、そしてハランが住む此処は南のハヌル州だ。



まだハランが小さい頃に父親のヌトからドギヤ国に古くから伝わる伝説を聞かされた事がある。



それはドギヤ国にまだ神がいた頃、ドギヤ国の人々は神を崇拝していた。

神には街を焼き尽くすほどの火、竜巻を起こすほどの風、大地を突き刺すほどの雷、津波を起こし国を沈没させるほどの水、大地を揺るがすほどの地、の五つの力を操ると云われていた。



そして神の心臓は不死の心臓と云われており傷ついた人を治癒する力もあった。

神に叶わないものなどないと思っていた人々だったが、神には一つだけ禁じられたことがあった。

それは死んだ者を生き返らせる事、それだけは禁じられていた。




そんなある日、神の行いに反対する者が現れた。

その者の名はキド、誰一人彼を知らない謎多き男だった。その男は、自分が描く世界を実現させようと心臓を手に入れる為に神を殺した。





そして神が殺されたその日、神の魂は五人の選ばれし者達に託され、その者達には神の火、風、雷、水、地の一つを操れる力が宿っていた。




神が殺され、神の心臓がその謎の男キドに奪われたことによって滅びていく。

そんな世界を見たドギヤ国の王は神が殺された日に神の魂を受け継ぎ選ばれた五人の者達の力を合わせ、神の心臓を取り戻そうと決意した。



神の力を持つ五人の選ばれし者達は五人の力を合わせ、キドから心臓を取り戻した。

そして誰にも見つからないよう、その神の心臓はドギヤ国の秘密の場所に封印したと云われている。



















ハランは目を瞑り両手を合わせ神に祈る。


そしてそのまま数分が経ち、潮風がハランの黒すぎない少し藍色のかかった髪の毛を靡かせ、ハランは閉じていた目を開けた。




この海で最後を遂げた神の身体は今でも海の深く底で眠っている、とヌトに聞いたハランは毎日こうやって神に祈りを捧げていた。



「よし、行こう! ルゥ」


とハランが言うとルゥは嬉しそうに尻尾を振り早く早くと吠える、ハランはルゥの首輪の紐を掴むと


「いい?さっきみたいに突然走ったらダメだぞ!よーい、スタートって言ってから走るんだ…よーい!スタート…」


と言い終わる前に、またしてもルゥは急に走り出した。


「うわ! 」


ハランもまた躓きそうになりながらも、なんとか体勢を整え、一人と一匹は朝日に照らされながら走った。
















商店街に着くと、ちょうどお店のシャッターを開けようとしているアレックスを見た。

アレックスは精肉店の店主、黒髮短髪で小麦肌色の少し筋肉質な体格、いや少しどころかムキムキの筋肉だ。



毎日、健康の為にトレーニングというのをやっているらしい。常に明るく裏表のない性格で凄くスキンシップが多くて会ったら必ずハグをされる、それも力が強いので力加減を知らないアレックスがハランは少し苦手だ。



ハランは気づかれないようにそうっと歩く、アレックスがお店のシャッターを開けている後ろ姿を見ながら少し小走りになる、そして通り抜けようとしたところで、愛犬のルゥが吠えた。



そうだった! ルゥはアレックスおじさんが大好きなんだ!

そう思ったハランはルゥに向かって小声で言った。


「しっ! ルゥ静かに! こら、そっちじゃないだろ! 」


首輪の紐を引っ張るが、ルゥはお構い無しに尻尾を振りながら吠える。

そしてアレックスの方へとハランはルゥの紐によって引きずられて行く、案の定アレックスはこっちを振り向いてハランとルゥに気づいた。


「おーい! ハラン! 」


と満面な笑顔で大きく手を振っている、距離はそんなに離れてないのにアレックスの声は常に大きいのだ。



「おはよう、アレックスおじさん」


とハランが言った途端、アレックスはいつもみたいに熱いハグをした。


「ハラン、見ないうちに大きくなったな! 」


ハランの頭を乱暴に撫でながら言った。


「お、おじさん昨日も一昨日も会ったよ…」


ハランは苦しくて、今にも息が止まりそうだった。


「あぁ、そうだったか? 」


「うん…おじさん…く、くるしい…」


「おぉ! すまん、すまん! 」


とアレックスは笑いながら言ってハランを放した、そして足元で構って欲しくて吠えているルゥを撫でながら言った。


「ルゥも大きくなったな、よしよし! 良い子だ! 」


ルゥは嬉しそうに尻尾を振っている。




ふと、ハランはお店の壁に大きなポスターが貼ってあるのに気づいた、そのポスターには誕生祭と大きく書かれてあった。


「アレックスおじさん、これ何? 」


とハランはポスターを指差して言った。


「それはなドギヤ国の王の息子、ノア王子の五歳の誕生日を国中の者達で祝うんだ! 」


「みんなで祝う…? 凄そうだね」


ハランはポスターをじっと見つめながら言った。


「おう、凄いぞー! 五年に一度の盛大なパレードがゼーガル州の中心街で行われるからな! よーし、よーし」


アレックスはルゥとじゃれ合いながら話す。


「そうか、ハランは誕生祭初めてだったか? 」


「うん」


「ノア王子、初めてのお披露目だな! 」


まだポスターを見つめているとハランの肩に大きな手が乗った、肩に岩が乗ったみたいな衝撃を受けたハランはさっきまでルゥとじゃれ合っていたアレックスが、いつの間にかハランの隣に来ていた。


「さて、開店の準備をするか! 」


と言っては店の開店準備を始める為にその場を離れた。





ハランは数分間ポスターを見ていると、無意識に足下にいるルゥの頭を撫でる、そしてアレックスが来て言った。


「ハラン!これ、持って行け! 」


と紙袋をハランに渡した、その紙袋の中にはここで売っている豚肉を揚げた豚カツが入っていた。

揚げたての豚カツの匂いが紙袋の中から漂う、豚カツが沢山入っていてハランはびっくりした。


「こ、こんなに? いいの? 」


アレックスが作る豚カツは、サクサクしている衣にジューシーな豚の脂が口いっぱいに広がり、いくらでも食べれるくらい大好きな豚カツにハランは喜んだ。


「おう! 今からゼンの店に行くんだろ? ゼンの分とアラナの分も入ってるから、一緒に食え! 」


「うん、ありがとう!アレックスおじさん! 」


と言ってハランは手を振り、店を後にした。













商店街を通り抜け、坂を上っていると見えてくるお店「イチゴイチエ」、本日のおすすめ「ごろごろ野菜のチーズカレー」と書かれた看板を見るとハランのお腹が鳴った。


ハランはcloseと書かれた木の札がぶら下がっている扉を開けると同時に、扉に付いているお客様が入って来たことを知らせる為のベルが鳴った。



扉を開けると、すぐさまルゥがお店の中に入って行ってしまった。



扉を開けた瞬間からコーヒー豆の香りが店中に漂う、入り口付近にはコーヒー豆が入っている瓶が沢山並べられていた、そして奥に進むにつれ段々とコーヒー豆を挽く音とカウンターで豆を挽いている店主のゼン・メンテスが見えてくる。



窓から陽射しが届き、それが黒髪の少し灰色のかかったゼンの髪の毛を照らしている。


「おはよう、ハラン」


ゼンは笑顔で言うと豆を挽く手を止め、ルゥの頭を撫でていた。


「ハラン、朝ご飯は食べたか? 」


首を振るハランを横目で見て、今から作るから一緒に食べて行け、そう言うとゼンは冷蔵庫から食材を取り出し作り始める。うん! と返事をしたハランはカウンターの席に座った。



ゼンの身長はそこまで高くない170前後ぐらいで、ムキムキなアレックスとは全く違く、華奢で小柄でいかにも運動して無さそうな体格だってことはハランでも分かる。



今も、冷蔵庫から取り出した苺ジャムの瓶の蓋を開けるのに苦戦している。



アレックスとゼンは同じ歳の三十五歳なのだ、三十代とは思えないくらいゼンの顔は童顔でそれに比べアレックスの顔は老け顔だ。

最初二人が同級生だってことにハランは驚いた、ちなみにハランの父親のヌトも二人と同級生だ。



「あ、そうだ! 」


ハランはゼンがまだ苺ジャムの蓋を開けるのに苦戦してる中ふと思い出しだ、さっきアレックスから貰った豚カツをすぐさまゼンに渡す。


「ん、何だ? …お⁈豚カツか! 」


ゼンは苺ジャムの瓶の蓋を開けるのを諦めたのか冷蔵庫に戻し、紙袋の中身を見て言った。


「さっきアレックスおじさんに貰ったんだ、みんなで食べろって」


ハランはカウンターに両肘をついて満面な笑みを浮かべた。


「そうか…よし、わかった! 」


ゼンは少し考えると、腕捲りをして料理を再開する、ハランはその様子を見ているとゼンが言った。


「あ!ハラン、そろそろアラナを起こしてきてくれないか?」


「え!まだ、起きてないのかよー! 」


「彼奴は寝坊助だからな、起こさない限りずっと寝てる」


「わかった…」


ハランはアラナを起こしに行く為に、渋々椅子から降りるとカウンター横にある扉を開ける。


開けるとそこには二階に行ける階段があり、ハランは階段を上がるとそこまで長くはない廊下を通る。


そして右に居間があり左に二つの扉がある、ハランは二つのうちの手前の部屋の扉を開けた。




そこにはベッドから足半分飛び出して寝てるアラナがいた、相変わらず寝相が悪いアラナは鼾をかいて寝ているが、アラナの鼾は部屋の外まで聞こえるくらい煩いのだ。


「アラナ、おーい! 起きろー! 」



そして起こすのに時間がかかる全然ビクともしないアラナ、一度じゃ絶対起きない。

だからハランはアラナがこの世で一番嫌いなルゥを、いや正確には動物を、幸せそうに寝ているアラナに放った。


「行け、ルゥ! アラナを起こせー! 」


ハランの小声の合図とともにルゥは走り出し、勢いよくアラナに飛びついた。



ルゥが吠えると、アラナは驚いたのか飛び起きるようにベッドから落ちた。


「ハラン! その獣を俺にそれ以上近づけたら、ぶっとばすからな! 」


枕を盾にし部屋の隅っこで震えながら言っているアラナ、用が済んだルゥはハランの隣に大人しく座っている。


「獣じゃない! ルゥだよアラナ」


ねぇ? ルゥ、とハランは隣に座っているルゥに言うとルゥは吠えて返事をする。


「うるさい、早くその獣をどっかに行かせろ! 」


アラナは口では強気だが顔が今にも泣きそうだったからハランは可哀想に思い、ルゥを先に下に戻らせた。


そしてアラナはその場を立ち上がり、もう大丈夫なのかハランの側を通り過ぎて先に階段を下りる。


「なんでいつもあの獣に起こさせるだよ、ふつうに起こせよ」


と階段を下りながら言うアラナ。


「だから獣じゃないって、ル、ウ! それにふつうに起こしても起きないアラナがいけないんだろ! 」


と金色の髪を掻くアラナの後ろを歩きながらハランは言う。


「だからって、あの獣はダメだろ! 」


「だから! 獣じゃないって! ルゥ! 」


階段を下りアラナはお店に入る扉開けると、ルゥが尻尾を振りながら扉の前に座って待っていた。


「わぁ! 」


驚いたアラナは瞬時にハランの背後に隠れる。


「ルゥ、待っててくれたのかー! えらい、えらい! 」


と言ってハランはしゃがみこみルゥの頭を撫でていると、ハランの背後にいるアラナがびっくりしたーと呟いた。


「二人共、出来上がったぞ」


と言ってゼンはカウンターテーブルに二人の大好物を置く。


「うわー、カツカレーだー! 」

「おー、カツカレーだー! 」


二人は感激しながらカウンターの椅子に座ると、ほぼ同時にいただきまーす! と言って手を合わせカツカレーを食べ始める。



ハランとアラナはゼンが作る料理が全部大好きだ、特にゼンが作るカレーライスは格別に美味しい、しかも今日は特別に先ハランがアレックスから貰った豚カツがのっているから更に美味しい。



「「おいしい! 」」


二人は、声を合わせ言った。



ゼンが作ったカレーライスは野菜が大きくて、ごろごろしたジャガイモや人参や玉ねぎが入っていてキノコも入っている、そしてその上に豚カツがのっていて更にその豚カツの上にはチーズがのっている、最高の組み合わせだ。




「それにしてもアラナは朝から騒がしいな、もっと静かに起きれないのか」


とゼンはコーヒー淹れながら笑う。


「本当だよ、ルゥを怖がってるんだったらさ、一人で起きればいいのに」


ハランも笑いながらアラナを見て言うと、ゼンはなぁ? とハランを見た、ねぇ? とハランもゼンを見て、二人はお互いを見ながら言った。


そんな、二人の馬鹿にしたような言い方に頭にきたのか


「うるさいよ! 」


とアラナは言うと豚カツを口いっぱいに頬張りながら二人を睨んだ。















ハランがアラナと初めて出会ったのは、アラナがハヌル州に来てから五日が経ったぐらいの頃だった。

ハヌル州では珍しい金色の髪に肌が色白で、瞳の色が橙色の人を初めて見たハランは驚いたのを今でも覚えている。



アラナは北のカナンダーラ州生まれで、アラナが言うにはカナンダーラの人は皆、金色の髪に橙色の瞳で色白の人ばかりでアラナもハランと同様、自分と全く違うハヌルの人々を見て初めは驚いていたらしい。



アラナは容姿が珍しいせいか同年代ぐらいの子達に良く揶揄われていた、それを見た正義感が強いハランはアラナを助ける。

ハランはアラナと友達になりたいと思うが、初めはなかなか心を開いてくれなかった、だが何度も何度も揶揄われてるアラナを助けるうちにアラナはハランに心を開くようになり二人は仲良くなっていった。









「そんなに怒るなって」



とハランがアラナの肩を優しく叩くと、アラナの眉間の皺が更に深くなる。

そして、ゼンは突然何かを思い出したのか慌ててポケットからアラナに一通の手紙を差し出した。

すると、先まで不機嫌だったアラナの表情が驚きと嬉しさの入り混じった表情になる。

そして、差出人の名はエドワードと書かれていた。










アラナの父親エドワードは冒険家で一年に一、二度しか故郷に帰る事が出来ないほど忙しい人だった、だがアラナの誕生日には必ず故郷に帰って来てアラナと一緒に一日中アラナの好きな事をやると決まっていた。

それが楽しみで楽しみで仕方がないアラナはエドワードが帰って来る、自分の誕生日が待ち遠しかった。



エドワードは故郷に帰るとアラナに街の外の話を良くしてくれる、アラナはその話が好きで世界中を回っているエドワードを誇りに思っていた。

口には出さなかったが、自分も将来好きな事をして生きたいと心の底で密かに秘めていた。



だが、その年エドワードは一度も故郷に帰って来なかった、突然ジェーンとアラナの前から姿を消したのだ。

エドワードを探したが行方も原因もわからないまま月日が経ち、アラナと母親のジェーンはいつかエドワードが帰って来ることを信じながら過ごしていた。



そして一年が過ぎた頃、四歳になったアラナに母親のジェーンが一人の男の人を紹介してきた。

その男はアラナの新しい父親だと言うが、よく分からないアラナはその男の事をお父さんと呼ぶことができなかった。

そんなアラナの態度が気に入らなかったのか、その男はアラナに何時も冷たい態度だった。



それに、ジェーンのお腹の中にはもう何ヶ月かしたら産まれてくる予定の赤ちゃんがいた。

二人は喜んでいたが、正直アラナは嬉しくはなかった。

一人取り残された気分になったアラナはいつか本当に自分一人だけ取り残されてしまうのではないかと心配になり、今だに行方不明のエドワードの事を思い出しては涙を流していた。



そして、赤ちゃんが産まれアラナには弟ができた、弟の名前はエリオット。

エリオットが産まれてからはアラナに対しての態度が更に酷くなり、血の繋がった母親のジェーンでさえ七歳になったアラナにでも分かるくらいエリオットに向ける愛情とアラナに向ける愛情が違かった。



次第にアラナは孤独への不安がより一層強くなり、無性にエドワードに会いたくなった。

そしてアラナは、まだ生きているかいないか分からないエドワードを探し始める。



休みの日には誰にも言わず隣街に行ってはエドワードの手掛かりを探す毎日。

そんな日が続き、ある時アラナがエドワードを探してる事がその男にばれると、その男はアラナを部屋に閉じ込めては外に出させないようにした。



アラナが部屋に閉じ込められて一週間ぐらいが経ち、食べる物も飲む物も与えられずにいたアラナの体力は限界に近かった。



このままだと死んでしまうと危機を感じたアラナは最後の力を振り絞って、部屋の窓から脱出しようとしたその時、玄関の扉が激しく開かれる音がして家に誰かが入って来たみたいだった。



そして、アラナの部屋の窓近くからジェーンの泣きながら何かを叫ぶ声とその男の怒鳴る声が聞こえた、二人はその誰かと言い争ってるみたいだった。

そんな中、アラナの体力は限界で意識が遠のいていく、するとアラナの部屋の扉が開いて一人の男がアラナを抱えると家を出て行った。



アラナは眼が覚めると見たことのない部屋のベットの上にいた、驚くアラナは勢いよく上半身を起こし辺りを見回すとそこは見たことのない部屋の景色だった、そして微かに香るコーヒーの香りがアラナを鼻をとおる。



アラナはベッドから降りると冷たい地面が裸足にささりながらも、アラナはゆっくりと歩き出した。

部屋の扉を開け出ると短い廊下を歩き階段を下りる、そして扉が目の前にあり、その扉を開けると先まで微かに香っていたコーヒーの香りが部屋中に香る。



そこには机と椅子が何個か置いてあり、カウンターの席もある。何かの店なのか?と察知したアラナは首をかしげると、アラナに気づいたのかカウンターでここのオーナーだと見られる男がコーヒー豆を挽きながらアラナに話しかけた。



「おはようアラナ、体調はもう大丈夫か? 」


その人は微笑んで言うとアラナのところまで近づく、だが状況がつかめないアラナはその場を固まったまま動かない。



「おい? 大丈夫か? アラナ! 」


反応しないアラナの肩を揺さぶるゼン、するとアラナは戻ってきたのか驚きながら言った。


「あんたは…? 」


「あーそっか、そうだよな、俺の事はもう覚えてないよな…あの時はまだ小さかった…」


アラナの頭の中は疑問でいっぱいだった、男は呟きながら少し苦笑いを浮かべ続けた。


「俺の名前はゼン、アラナの父親とは古くからの友人なんだ」


「…俺の父さんと…? 父さんは今どこ? 母さんは? あいつは? エリオットは? 」


アラナはパニックになり、ゼンの体を勢い良く揺さぶる。


「アラナ、落ち着け! 生きてる! おまえの父さんは今もまだこの世にいる! 」


「…………ほんとに? …生きてるの? じゃあ今どこにいるんだよ」


「それは…俺もまだ分からないんだ…でも、生きてるってことは確かだ」


と言うとゼンはズボンのポケットの中から何かを取り出しアラナに渡した。

アラナは一通の手紙を受け取ると手紙を読み始めた、差出人はアラナの父親エドワードだった。


「父さん…」


その手紙の内容を読んだアラナは涙を流し、手紙を強く握りしめる。

ゼンはアラナを優しく抱き締めると言った。


「エドワードがアラナのもとに帰って来るまで、俺がお前の父親の代わりだ」


そして続ける、


「それと、お前の母さんとあの男と弟は無事だ、心配するな」


そう聞くとアラナは泣きながら頷いた、こうしてゼンとアラナは一緒に生活を始める。




























そしてエドワードからの手紙が一ヶ月に一通は届く、それが待ち遠しいアラナは毎日ポストを何度も欠かさず確かめるのだ。



アラナは必死にエドワードからの手紙を隅から隅まで読むと、突然その場を立ち上がり言った。


「来る…て…」


「え? 」


驚きの隠せないアラナの声は少し震えていて聞きづらく、ハランは思わず聞き返す。


「来る! て、父さんがこの街に! 俺に会いに!来るって! 」


アラナは嬉しさのあまり飛び跳ねる、そんな様子を見ていたハランも嬉しくなり大きく何度も頷いてはその場を立ち上がり万歳をした。



ゼンはアラナの嬉しそうな表情に自然と笑顔になると、よし! そこまで! と二回ほど手を叩く。

そして、冷めるから早く食べろ、と言うとハランとアラナは返事をして席に座り直し再びカツカレーを食べ始めた。





すると、突然アラナがハランに小声で言った。



「なぁハラン、あの計画はどうなった? 」


「あの計画? 」


ハランが言うとアラナはゼンに聞こえないよう更にハランの耳元で小声で囁く。

すると、あぁ! と思い出したのかハランの声は予想以上にでかくて思わずアラナはハランの頭を叩く、そしてハランの声に驚いたゼンは言った。



「おい、どうした? ハラン」


「いや、なんでもない…ちょっと用事を思い出しただけ…な? アラナ、行こう! 」


「お、おう! 」


ははは、と空笑いをするハランとアラナはカレーを食べ終わると、ご馳走さま! と言いすぐさまお皿を片付ける、そして二人は行ってきます! と言って店を出ると、その様子をじっと見つめるゼンは眉をしかめながら言った。


「怪しいな…」


なぁ?ルゥ、とゼンはルゥの方を見る。













イチゴイチエを出て坂を下るハランとアラナ、二人だけの秘密基地を行く途中アラナが言った。


「ハラン何やってんだよ⁈絶対、ゼンに怪しまれたぞ! 」


「ごめん、ごめん! 」


と言ってハランは両手を合わせ謝ると、アラナは仕方ないと言わんばかりにため息を吐き言った。


「よし、気を取り直して秘密計画考えるぞ! 」



アラナとハランは秘密基地に着き、木で作った二人だけしか知らない秘密基地に入る。

そして、ハランは木で作った机の上に家の書庫で見つけたドギヤ国の地図を広げた。



そして、アラナはセデラル街の東にある迷いの森を指差して言った。


「明日だ、明日行こう! 」


「明日? 明日はドギヤ国の王様の息子の誕生祭だよ? 人が多い中わざわざ森に入るの? 」


「そう、だから明日なんだ! その息子が誕生祭で街の人々の気をひいているうちに俺達は森に入る。」


「そうか、なるほど! 」


とハランは手を叩き納得した、だがアラナは急に険しい表情になり言った。


「けど、問題はゼンだ」


「ゼンさん? なんで? 」


「いつも俺達のことを監視してるし、先ので確実に怪しまれた」


「まぁ、ゼンさんは俺達にとって第二の父さんみたいなもんだしね」


じゃあ、どうする? とハランが言うと、アラナは唸り頭を悩ます。

すると突然、秘密基地の外から犬の吠える声が聞こえた。

ハランとアラナは顔を合わせると、ルゥだ! と言い扉を開けた、扉の外には本当にルゥがいてハランはルゥの頭を撫でながら言った。


「良くここがわかったな、ルゥ! すごいぞ! 」


ハランは喜びと驚きを隠せずにいると、アラナは何か思いついたのか、こいつだ! と言いルゥを指差した。



ハランはアラナが指差す方を見て言った。


「え、ルゥ? 」


「そう、ルゥにはゼンの見張り番をしてもらう」


「どうやって? 」


「ゼンは誕生祭の日でもイチゴイチエを開店する、て言ってたから外には出ないはず…だけど万が一ゼンが外出するかもしれない、その時はルゥお前の出番だ! すぐさま俺達に知らせろ、いいな? 」


「上手くいくかな? 」


「大丈夫だろ、賢さは認めてるからな」


と珍しくアラナがルゥを撫でる。


「お?アラナがルゥに触るなんて珍しい! 」


ハランも同じくルゥを撫でると、ルゥは返事をするかのように吠えた。


「よし! そうと決まったら、俺達は迷いの森にある湖を探す! 」


と言うとアラナは拳をハランの前に出すと、ハランもアラナと同じく拳を前に出す、そしてハランが言った。


「うん! そして湖に封印されている神の心臓を盗む」


ハランとアラナの二人の拳は軽くぶつかり合い、決意をする。






迷いの森には、ある物が隠されているとハヌル州の人々の中で噂されているが、そのある物というのがハランとアラナが欲しがっている神の心臓だ。

湖に封印されているらしいが迷いの森に入った者で湖を見つけられた者は誰一人としていなく、森の外に出られた者もいないと言われている。



ハランがこれほどにも危険な森にある神の心臓を欲しがるのには理由がある、それはすべて母親のクララの為だった。














ハランはアラナに別れを告げると、母親のクララが待つ家へと帰る。

家に入ると部屋の中からクララが誰かと話す声が聞こえた、ハランが歩くと二人の声は次第に大きくなって耳に届く。




「クララ、このままだとお腹の赤ん坊も危ない…」


とクララに話しかけるのは、セデラル街一番の医師ドミニク・ハウゼンだ。



クララは生まれつき心臓が弱いため、小さい頃から病院通いのクララにとってドミニクは本当のおじいちゃんみたいな存在で、ドミニクにとってクララは可愛い可愛い孫みたいな存在だ。



そしてクララは勢いよくソファから立ち上がる、


「けど、私は産みたい…たとえ自分の命がないとしても、この子だけは! 先生、この子だけは産みたいんです! やっと授かった子なんです! 」



クララは泣きながら必死に言うとドミニクの腕を強く掴む、ドミニクは下を向き込み上げてくる涙をこらえて顔を上げる、そしてクララの瞳を見て言った。


「クララ…赤ん坊を産むならお前の命は1%も助からないかもしれない…けど…その1%をかけて私は全力を尽くしてお前と赤ん坊を助けるよ…」


ドミニクはクララの肩をしっかり掴み、こらえきれない涙が溢れる。そんなドミニクを見てクララは強く頷き、ありがとう先生と泣きながら微笑んだ。




すると突然、嫌だ! と言う声が背後から聞こえ、部屋の扉が勢いよく開くと今までそれを聞いていたハランが立っていた。


「ハラン…? 」


クララとドミニクは驚いた顔しながらハランを見つめる、どうしても納得いかないハランは言った。


「嫌だよ…母さんが死ぬなんて! そんなの嫌だ!僕は絶対嫌だ! 」


ハランの声は部屋中に響き渡る、クララがハランの方に歩み寄るとハランは思い切り首を振り、聞きたくない! とその場を去って行ってしまった。


「待って! ハラン! 」



ハランはクララの声を無視して家の扉を勢いよく開け、ひたすら走る。

今までクララと過ごした日々が走馬灯のようにハランの頭に流れ、ハランの瞳は涙でいっぱいだった。





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