リドルの片翼(二)(リドル視点)
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ちょっと間が開きましたが、『リドルの片翼』の続きを更新です。
それでは、どうぞ!
リュシー霊国の森は、淡く発光をしていて、光輝く森だった。このような森は、きっと他では見ることはできないだろう。
相変わらずクスクスと笑い声が聞こえる中を進んでいくと、ふいに、何者かの気配が前方に現れる。
「「っ!?」」
咄嗟に二人して警戒態勢に入るものの、そこに敵意や害意は見られなかった。そのため、警戒を維持しつつ、俺達はそいつの方へと向かってみる。すると……。
「やぁ、こんにちは。リュシー霊国には観光かな? それとも、略奪?」
そこには、一人の女性がにこやかな表情を浮かべて立っていた。青く短い髪に、大きな黄色の瞳を持つその女性は、どこかボーイッシュで、同性にモテそうな雰囲気を醸し出している。
「あ、あぁ、観光だ」
「ふぅん? そっちの魔族さんも?」
俺が返事をすると、その女性はナリクに向かっても同じことを尋ねる。しかし、そのナリクは、なぜか目を大きく見開いたまま硬直していた。
「おい? リク?」
何かそんなに驚くようなことでもあっただろうかと考えるが、見渡す限り代わり映えのしない森しかない。そんなことを考えていたからか、俺は、次にナリクが取った反応に呆けることとなる。
「俺の片翼。どうか、俺と結婚してくれませんか?」
「はっ?」
「へっ?」
突然、ひざまづいて、目の前の女性にプロポーズし出したナリクに、俺は動揺を隠せない。
(お前、そんなキャラじゃないだろっ)
心の中で、盛大に突っ込みを入れるものの、目の前の光景は変わらない。ナリクはひざまづいたままだし、女性は硬直したままだ。
「あー、リク? その人が片翼なのは分かったから、まずは説明から入らないか?」
このままでは、話が進まないと思った俺は、まだ混乱が抜けきらないながらもそう提案してみる。
「そう、だな」
そして、ナリクがその提案を受け入れた直後だった。
「アリシアっ、遊びに来ましたよーって、あら?」
「っ、レティっ!? 僕は仕事だと言っただろう!?」
「す、すみません……ですが、もう交代の時間だと聞いたので……」
突如として現れた女性に、俺は、完全に目を奪われた。飴色の髪に、飴色の瞳を持つ、色白で美しい精霊。ドクリと、心臓が音を立てて、全身が歓喜に震える。
先程は、ナリクのらしくない行動に戸惑ったものの、自分で体験してみて、よく分かった。これは、抗えない。何よりも、愛しくて愛しくて仕方がない片翼を前に、求婚するなという方が無理だ。
「俺の、片翼……どうか、俺と結婚してもらえませんか?」
気がつけば、先程のナリクと全く同じセリフをひざまづきながら告げていた。
「? アリシア、この人は何を言ってるのですか?」
「あー、うー、そう、だよね、レティが魔族のことを知るわけないもんね。……まぁ、僕もあまり知らないわけだけど」
「……リド、一緒に説明しよう」
「あ、あぁ」
ナリクに声をかけられてようやく俺は意識をぼんやりさせながらも正気に戻る。
(そうだ。何としても口説き落とさなきゃならないんだ)
片翼なんていらないと思っていたことなんて忘れて、俺は、レティと呼ばれた女性に釘付けになる。
「あー、とりあえず、落ち着ける場所に行こう。話はそこで聞くよ」
アリシアと呼ばれた、ナリクの片翼の提案に、俺達は一にも二にもなくうなずく。とにかく早く説明して、求婚して、結婚したかった。
「あの、わたくしも一緒に居て良いのですか?」
「大丈夫。と、いうより、僕とレティが当事者だから、一緒に居てくれなきゃ困るよ」
「わ、分かりました」
天使のように清らかな声で話す彼女に、俺はもう一度求婚したくなったが、説明もしていないのにそんなことをしても無駄だと、どうにかその欲求をやり過ごす。チラリと横を見れば、ナリクも似たようなことを考えていそうなかおだった。
「何だか、あの人達、ちょっと怖いのですが」
「……うん、何かあれば、僕がレティを守るよ」
聞こえていないと思っているのか、二人でコソコソ会話をする様子に、俺は一人、ショックを受ける。
(こ、怖い!? 顔か!? この顔がいけないのか!?)
実際は、瞬きもせずにじっと見つめられて怖いということだったらしいのだが、その時の俺は、もっとキラキラした、ナリクみたいな顔であれば良かったのにと本気で後悔していた。
「さ、さぁ、着いたよ」
どんよりとした気持ちを抱えたまま、それでもレティから目を離すことなくついていけば、そこには、美しい湖が広がっていた。そして、同時に、あれだけ騒がしかった下級精霊の声が一切響いてこないことにも気づく。
「ここは、僕達精霊が、話し合いのために使う場所なんだ。だから、何か重要な話し合いがない限り、ここには誰も来ないよ」
「そうか」
大きくうなずくナリクを横目に、俺はレティをじっと見つめる。しかし、レティはそんな俺の視線から逃れるように、アリシアの後ろへと隠れてしまう。
「レティ、大丈夫だから出てきて?」
「ですが……」
「僕が聞いた話が事実なら、この人達は僕達を傷つけたりはしないよ」
「……分かり、ました」
警戒しながらも出てきてくれたレティに、俺は可愛いという言葉しか頭に浮かばなかった。できることなら、このまま拐ってしまいたいが、そんなことをして片翼を怯えさせるわけにはいかない。片翼が異種族だった場合、あくまでも、愛し、愛される関係を築かなければならないのだ。
「それじゃあ、教えてくれるかな? 魔族にとっての片翼ってやつを」
自分は詳しくは知らないからと言うアリシアに促されて、俺とナリクは、片翼という存在の説明を始めるのだった。
この続きは……しばらく後になりそうです。
明日は本編を更新しますので、しばらくはそちらをお楽しみください。
それでは、また!