『閑話 リドルの悲劇』より 戦い(リドル視点)
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遅くなりましたが、三話目の更新です。
それでは、どうぞ!
試合開始の合図は、下級精霊達の声だった。
「「「はっじめーっ」」」
その声と同時に、オルフィーは木剣を持って駆け出す。けれど……。
「うわっ」
ビターンと、オルフィーは小石にでもつまづいたのか、転んでしまう。
「くっ、姑息なっ。ならば、飛んでいくまでっ!」
何もしていないにもかかわらず、闘志をみなぎらせるオルフィーは、わずかに宙に浮いた状態で迫ってきた。けれど……。
ヒョイ。スカ。ヒョイ。スカ。
あくびが出るほどに遅いオルフィーの斬撃をかわすことなど、容易かった。
「よ、避けるなぁっ。正々堂々、勝負だっ!」
全ての攻撃をかわすと、オルフィーは必死になってワタシに喚き散らす。だから、ワタシはお望み通り、木剣で受けることにするのだけれど……。
「うわぁあっ!」
軽く受け止めただけなのに、オルフィーは大袈裟なくらい後ろへと吹き飛んでいく。
「ふっ、それでこそ、この私を倒した男っ! しかぁしっ、私は諦めなどしないぞっ!」
ここまでくれば分かると思うけれど、オルフィーは……と、いうより、精霊は、戦いに全く向かない。魔力を糧とする精霊達は、魔法ですら、攻撃ができないのだ。いたずらをさせたら右に出るものは居ないと言われる精霊だが、戦いの場に置いてはとんだポンコツ具合だ。それでも……いや、だからこそ、精霊の中には戦いに憧れる者がある一定数出てくる。オルフィーは、その一定数の一人だった。
(まぁ、何が面倒かというと、諦めが悪いことが面倒なのよね)
今すぐにでもレティを捜し出したいものの、オルフィーを無視するわけにはいかない。
こんなに弱いのであれば、さっさと片をつければ良いだろうと、普通は思うだろうけれど、精霊と対した場合、それではいけないのだ。なぜなら……。
「うわっ」
「あっ、不味っ」
つい、少し力を入れて木剣を弾き飛ばすと、オルフィーは木剣から手を離して吹き飛んでいく。そして……。
「ふっ、ふふふふっ、これこそ、男の戦いっ! さぁっ、かかってこいっ」
そう、強敵だと見ると、さらに増長して挑んで来るのだ。
精霊は、その性質上、疲れるということがない。そして、とにかく執念深い。だから、一度精霊と何かに付き合うこととなると、どこまでもどこまでも、満足するまで離してもらえないのだ。
ワタシは、レティに求婚し、受け入れてもらった後のオルフィーとの戦いを思い出してげんなりする。賭けているものがレティに関わることであるために、負けることはできない。そして、オルフィーを満足させなければならないということで、三日三晩、戦い続けた記憶がある。
(そんなに時間はかけられないわよっ)
とにかく、冷静さを求められる精霊への対応。自棄になって、暴れれば、それはそれで精霊の対抗心に火をつけることになってしまう。
(とはいっても、どうしたものかしら……?)
オルフィーの木剣を受け流しながら、ワタシは早く決着をつける方法を考える。そして……。
「そういえば、レティが『暑苦しいお父様なんて嫌い』と言ってたわね」
そう言った瞬間、オルフィーは見事に木剣を振り上げたまま固まる。
「レティが……私のことを……嫌い?」
「えぇ、何でもかんでも剣での勝負に持ち込むことが嫌だと言ってたわね」
これは、嘘でも何でもない。実際に、求婚を受け入れてもらった後に、ワタシがオルフィーと三日三晩戦うことになったのを見て、そう言っていたのだ。
レティとしては、一日も早くワタシといちゃつきたかったらしい。その理由を聞いたワタシが、色々と我慢の限界を迎えたことは言うまでもない。
言葉による強烈なダメージを受けたオルフィーは、とうとう木剣を手から落とし、地面に膝をつき、頭を抱える。
「うおぉぉおっ、レティに、嫌われた!? 私がっ!? うおぉぉおっ!」
効果は抜群。ダメージは甚大だ。これならいけるかもしれないと、ワタシは内心ほくそ笑む。
「それで? 続きはするのかしら?」
「続き、続き……レティに、嫌われる……剣の勝負、嫌われる……」
真っ青な顔でブツブツと呟くオルフィー。周りの下級精霊達は、戦わないのかとやんややんやと騒ぐけれど、これは、戦いどころではないだろう。そうして、ここらで一つ、提案をするべきだろうと考えたワタシは、ゆっくりと口を開く。
「レティの場所を教えてくれるのなら、今回、勝負をしたことはレティに黙っておくわよ?」
「ほ、本当か?」
「えぇ、もちろん」
自分に悪魔の角と尻尾が生えたような気がしないでもないけれど、レティのためなら悪魔でも何にでもなってみせる所存だ。
「わ、分かった。レティの居場所を教えよう」
そうして、ようやく、ワタシはレティの居場所を聞き出すのだった。
リド姉がちょっと黒いです。
でも、戦いによる疲労はたまっているはずっ。
恐らく、次回が『リドルの悲劇』の拡大版の最後に……なると良いなぁと思っています。
それでは、また!