節分蕎麦 *少し未来のお話です(ライナード視点)
こちらは、『俺、異世界で置き去りにされました!?』のお話が終わってからのお話という時間軸の設定にしてあります。
主にイチャイチャなお話ですが……。
とりあえず、どうぞ!
今年は、カイトと初めて迎える節分。いや、本来なら、前年にはカイトと出会っていたものの、その頃は何かとゴタゴタしていたので、こうして落ち着いて節分を迎えるのが初めてということになる。
「へぇ、こっちにも節分があるんだ」
俺の部屋でまったりとくつろぐカイトに、節分を祝おうと話せば、カイトはそう返す。
「カイトの世界にもあったのか?」
「あぁ、そうだ。豆まきをして、年の数ほど豆を食べて、後、恵方巻きも食べるな」
「年の、数……八百も食べるのは勘弁してほしい」
「……えっ? ライナードって、いくつなんだ?」
そう言われて、俺は改めて自分の年齢を思い出してみる。
「確か……八百二十五歳だ」
「はっぴゃく、にじゅう、ご……」
呆然とした様子のカイトに、俺は何か間違ったことを言っただろうかと不安になる。
「魔族が長生きなのは知ってたけど、まさか近くにそれだけ生きてるのが居るとは思わなかった」
「む? ルティアスもジェドも、俺とそう変わらないぞ?」
「……そっか、魔族、すげぇ……」
遠い目をするカイトに、やはり、俺は何か間違ったのだろう。ここは、本来の話題で挽回すべきだと、俺は早速口を開く。
「今年は、豆もしっかり用意したし、鬼の面もある。恵方巻きは昼に作るし、節分蕎麦は夜にでも作ろうと思っている」
「へぇ、節分蕎麦っていうのがあるんだ」
「む、温かい蕎麦だ。ネギや菜の花、豚肉なんかを入れる」
「美味しそうだな」
「もちろん、旨い。それで、だな……」
「どうしたんだ? ライナード?」
ここから話す内容は、本来の節分ではなかったはずの、後から生まれた文化だと言われているものだ。当然、カイトが知らない可能性の方が高い。しかし、カイトと想いを通じ合わせて約一年。そろそろ、俺も一歩踏み出したいのだ。
「その……節分蕎麦は、伴侶同士が食べさせ合うことで、お互いの健康を祈願するというものがあって、だな……」
そこまで言えば、カイトは会話の流れを察して、頬を赤く染める。
「食べさせ合うって……い、いわゆる、『あーん』?」
最後の方は、小声だったものの、残念なことに魔族である俺の耳の性能は極めて良好で、隠したかったであろうその言葉を聞き取ってしまう。
「そ、の……カイトが、嫌で、なければ……」
「い、嫌じゃ、ない、けど……は、恥ずかしいっ」
「……試してみても、良いだろうか?」
「っ、こんなことで許可を取ろうとするなよっ」
顔を真っ赤にして叫ぶカイトに、やはりダメだろうかとしょんぼりしていると、すぐにカイトの慌てた声が届く。
「い、いや、ダメってわけじゃないからなっ? ただ、その、恥ずかし過ぎて……あぁっ、もうっ、何言ってんだ、俺っ」
「そう、か……なら、夕飯は、楽しみにしている」
「お、おぅ」
許可が出たことで微笑めば、カイトは赤い顔のまま、さっと目を逸らす。
その日の夕飯は、俺にとって、かけがえのない思い出となったのは、言うまでもないだろう。俺達は、その後、毎年、節分の時は蕎麦を食べさせ合うことになるのだった。
本編がシリアス突入となっていますので、しばらく、番外編はできるだけコメディとか、イチャイチャとかにしたいと思います。
それでは、また!




