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片翼シリーズ番外編  作者: 星宮歌
わたくし、異世界で婚約破棄されました!?の番外編
28/41

七夕(リリス視点)

よっし!


リリスちゃんの七夕書けました。


それでは、どうぞ!

 魔物の断末魔が響き渡り、朝を迎えた魔の森。その最奥にそっと佇む木造の一軒家で目を覚ましたわたくしは、ベッドの上で大きく伸びをして、近くの窓のカーテンを開け……固まる。


 窓の向こうには、少し拓けた空間と、その向こうに鬱蒼とした木々が生い茂っている、はずだったのだが、目の前には、なぜか巨大な笹があった。窓を開けて見上げてみれば、その全長は、ゆうに二十メートル以上ありそうだ。

 わたくしは、それを見て、ゆっくり、大きく息を吸い……。



「ルティーっ!!!」



 ことの元凶であろうルティアスを呼びつけるのだった。








「それで? なぜ、こんなに巨大な笹を、わたくしの庭に植えたのですの?」


「え、えっと、今日は、七夕だし、大きな笹の高いところに短冊を飾れば、願いが聞き届けられやすい、かなぁ、なんて……」



 わたくしの部屋で、正座をしてダラダラと汗を流すルティアスは、どうやら、昨日の内にこの笹を調達してきて、夜、植えていたらしい。しかも、この笹、ただの笹ではなく、世界一大きいとされる種の笹のようだ。



「そう」


「え、えっと、リリス? その、勝手なことをして、ごめんなさいっ」



 笹のおかげで、わたくしの部屋には光が全く入ってこない。ルティアスもさすがにそれは想定していなかったらしく、土下座をして謝罪してくる。



「……はぁ、分かりましたわ。期間限定で、ここに植えておきましょう。明日には片付けることを約束してくださいまし」


「うん、分かったよ! 明日には、元の場所に返してくるっ」



 そうして、わたくし達はその日をゆったりと過ごした。

 願い事? そんなもの決まっている。『ルティが行き過ぎた愛情表現をしないように』だ。朝の出来事があれば、また違った願い事だったかもしれないが、いかんせん、あれはインパクトが大きかった。

 ルティアスの方はというと、わたくしの願いを読んでしょんぼりしながら、『リリスといつまでも甘い日々を過ごせますように』と書いていた。これ以上は糖分過多だと思いながら、どうせ、各々の願望を書くだけなのだからと見逃し、ルティアスに頼んで、笹の高いところへ短冊を飾ってもらう。もちろん、他の飾りつけもいつの間にかルティアスが大量に作っており、中々に迫力のある笹が出来上がっていた。



(今日は、晴れですわね)



 この調子なら、彦星も織姫も会えるのだろうなどと思いながら迎えた夜。……わたくし達は、信じられないものを目にする。



「グルルルル」


「グルゥ」


「ガァアッ」



 家の周囲に張り巡らせた結界。それを囲むようにして現れたのは、大量のキラーパンダ。日本のパンダを一回り巨大にして、長い鉤爪と真っ赤でギョロリとした目を持つ殺戮に長けたパンダ。そんなものが、なぜか今、涎を垂らしながら、血走った目で、家を取り囲んでいたのだった。



「リリス、リリスは僕が守るからねっ」



 外の異常に、ルティアスが何やら格好いいことを言っているが、原因は明らかだ。



「はぁ……まさか、こんなことになるなんて……」



 キラーパンダ。好物、笹。それだけの情報があれば、今がどういう状況なのか、分からないはずもない。昼間に出てこなかったのは、きっと彼らが夜行性だからだろう。


 その後、笹を切り倒すべきだと主張するわたくしに、ルティアスは情けない顔で同意し、切り倒した笹は、凶暴化したキラーパンダ達に寄ってたかって食い漁られる。


 日が射す頃になって見てみれば、一枚の葉も残らない笹だったはずのものが横たわり、キラーパンダ達の姿はなくなっていた。



「こんな、はずじゃあ……」



 頑張った飾りつけも、無惨にボロボロになってしまったのを見て、ルティアスはうなだれる。



「……ルティ、次は、普通サイズの笹を、家の中に飾りましょう。そうすれば、わたくしも一緒に飾りつけをできますわ」


「一緒……」


「七夕は、皆で楽しむものでしょう?」


「っ、うんっ、そうだねっ! 来年は、一緒に飾りつけをしようっ!」



 今回の笹は、高さがありすぎて、わたくしは飾りつけを全てルティアスに任せていた。しかし、来年からはきっと、一緒に飾りつけをできる。今回より、もっと、ずっと楽しいはずだ。

 残った笹の残骸を焼却処分したわたくし達は、また、穏やかで甘い日々を送る。何だか、ルティアスの願い事が叶っているような気がしないでもないが、きっと、これは幸せな日々。



(この幸せが、いつまでも続きますように……)



 空に向けて、本来の願いを飛ばしたわたくしは、ルティアスに名前を呼ばれて、ルティアスの元へと駆けていくのだった。

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