女子会 後編(夕夏視点)
初めてリリスさんを見た時は、なんて羨ましい体つきをしているんだろうと思ってしまった。身長が高く、出るところは出て、へこむところはへこんでいる、素晴らしい体だった。しかも、かなりの美人とくれば、身長も低く、顔も幼く、胸もない自分を見てへこむのは当たり前だった。
ただ、ルティアスさんの片翼ということで、少し気になっていたのも本当だ。同じ人間の片翼の人……私は両翼ではあるけれど、それでもきっと、人間と魔族という関係性は同じだから、共通の悩みなんかもあると思うのだ。
しどろもどろになりながら、婚約破棄のことや、その直後にルティアスさんに出会った話をしてくれるリリスさんに、私はこれからも仲良くしてほしいと心から思う。
「それで、ルティアスは日本食を作るのが上手でして――――」
「? 日本食?」
リリスさんの話を聞いていた私は、その言葉に思わず疑問を抱く。
「あっ」
「……えーっと、リリスさんって、日系の外国人の方、だったりします?」
そう自分で言っておきながらなんだけれど、リリスさんの色合いは普通にあるものなのかどうか、いまいち自信がない。紺碧の髪に紅の瞳という組み合わせの人間が、地球に居ただろうか?
「えっ? それでは、もしかして、ユーカ様は日本人!?」
けれど、どうも私の予想はあながち間違ってはいなかったらしい。大きく目を見開いて嬉しそうにするリリスさんを前に、私はとりあえずうなずく。
「えっと、死んだと思ったら、この世界に来てました」
「あら、そうでしたのね!? わたくしは、死んだと思ったら、この世界に転生してましたわ」
お互いにお互いの状況を説明すると、多少の差はあれど、中身は日本人で間違いないという結論に達する。
「転生ですか……だから、髪の色とか、見慣れない感じだったんですね」
「ユーカ様は、一目見た瞬間から日本人じゃないかと疑いはしましたが……本当に日本人だったとは」
それから、私達はなぜか日本食談義へともつれ込む。私はあまり食べたことがなくて、食べてみたいと思っていた料理があることを話してみると、それは私の夫であるジークやハミルに言うと良いと助言を受ける。何でも、魔族は大抵、どんな料理でもできるらしく、私に頼まれればきっと喜んで作ってくれるはずだとのことだった。
「そっか……なら、今日にでも頼んでみます」
「そうなさいまし」
そうして、そろそろリリスさんが帰るという頃になって、私の専属侍女であり、熊の獣人であるララがおもむろにリリスさんへと近づく。
「リリス様。魔族の片翼として日々努力なさるあなた様に、渡しておきたいものがございます」
その言葉に、嫌な予感がした。けれど、具体的なことが分からない私は、それを止めることができなかった。
「あら、何ですの?」
そうして、ララが取り出したのは……この世界に来てから、なぜか見慣れてしまった『鞭』だった。
「……」
絶句するリリスさんを前に、ララは表情を変えることなく、淡々と説明を始める。曰く、片翼を前にした魔族は、度々暴走するため、抑止力を持つべきだと。
しばらく視線をさ迷わせたリリスさんは、そーっと私の方へ視線を移し……一気に逸らす。
「っ、違いますからね!? ララ! そんなものを渡しちゃダメですっ!」
「なぜですか? リリス様ならば、とても似合うとも思うのですが?」
そう言われて、私は思わずリリスさんを見てみる。ボンキュッボンな我が儘ボディに、つり目がちな目。高笑いが似合いそうな美しい顔立ち。
「確かに……」
「ちょっと!? ユーカ様っ、わたくし、鞭なんて使いませんわよっ!?」
血相を変えたリリスさんの反論を受けながら、私達はとりあえずお互いの誤解を解いて、鞭は封印という形を取る。その際、ララが非常に残念そうに見えたのは……見なかったフリをした。
「それでは、わたくしは戻りますわ」
「はい、またいつでも遊びに来てくださいね」
そうして、私達の初めてのお茶会、もとい、女子会は終了するのだった。




