女子会 前編(リリス視点)
その日、わたくしはユーカ様にルティアスの無事を知らせるために、登城していた。
そう、登城だ。本当は、ラディス様にルティアスの無事を伝えて、それをユーカ様に伝言してもらおうと思っていたのに、なぜか、わたくしがユーカ様とのお茶会に招かれていると告げられて、あれよあれよという間にお茶会へ向かうこととなったのだ。
(き、緊張しますわ)
相手は、ヴァイラン魔国、並びにリアン魔国の魔王妃。ルティアスを助けてくれた恩人でもあり、もしかしたら、同じ世界から来たかもしれない人。
日本家屋が立ち並ぶ街とは違って、西洋系のお城がドンと存在する違和感を気にする間もなく、わたくしは、そのお城へと入る。
「こちらでユーカ様がお待ちです」
「わ、分かりましたわ」
表情の乏しい熊の獣人の侍女に案内されて、わたくしは、そのお城の庭へと向かう。
「っ、こ、れは……」
そして、お茶会の会場を目にした瞬間、わたくしはその見事な設営に言葉を失う。
大小様々なクリスタルフラワーと呼ばれる薄く透き通った花が大量に咲き誇り、魔力による光がシャボン玉のようにフワフワと辺りを漂う。
「こんにちは、リリスさん」
「っ、本日は、お招きいただきありがとうございます」
「えっと、堅苦しくしないで。今日は気軽に話してほしいんです」
「わ、分かりましたわ」
クリスタルフラワーは、別名、『魔力喰らい』。その育成には大量の魔力を必要とするため、わたくしの故郷であるレイリン王国では滅多にお目にかかれない代物だった。それが、これだけ存在するのも、そして、魔力の明かりでライトアップするという発想も、魔力が潤沢な魔族らしいといえばらしいのかもしれなかった。
「今日、お呼びしたのは、その……私以外で、人間の片翼の人が珍しくて、色々とお話できたらな、と思いまして……」
「そういえば、ユーカ様も人間なのですわよね」
席を勧められて、ゆっくり腰かけると、すかさず先程の侍女が紅茶を淹れてくれる。
「はい、リリスさんのことは、生誕祭の夜、食事をしてる時にルティアスさんと一緒に居るところを見つけたんです。それで、その時からずっと気になっていたんです」
そう言われて思い返せば、確かに、誰か貴族が来ているのではないかと思われる場所があったことを思い出す。
(あれは、ユーカ様だったのね……)
案外近い場所にとんでもない身分の人が居たことを知って、わたくしは戦慄する。
「それは、光栄ですわ」
どうにかそれだけを返して、わたくしは熱い紅茶に口をつける。
(うん、美味しいですわ)
そう思いながら、やけにキラキラした視線を寄越してくるユーカ様が気になって仕方がない。
「……えっと、ユーカ様?」
「あっ、ごめんなさい。ジロジロ見てしまって。その……リリスさんって、ルティアスさんのことがとっても好きなんですよね」
「ふぐっ」
レイリン王国でもお目にかかれない、高級な果物を使ったケーキを前に悩んでいると、とんでもない爆弾発言が出てくる。
「ルティアスさんのために、必死になってて、すごく素敵だなって……あっ、ルティアスさんの無事は、ラディスさんって人が報告をしてくれたみたいなので、もう知ってますからね」
(ラディス様!?)
まさかのもう報告済みという状況に、わたくしは困惑を隠せない。
「えっと、私、ルティアスさんとの馴れ初めとか聞いてみたいんですけれど……良いですか?」
期待した瞳で見られて、わたくしは……断ることなど、できなかった。




