表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片翼シリーズ番外編  作者: 星宮歌
私、異世界で監禁されました!?の番外編
15/41

豆まき(夕夏視点)

 冬の寒いある日、それは唐突にやってきた。



「豆まき、ですか?」


「はい、今日は節分ですので」



 『豆まき』や『節分』という言葉に、私は思わず眉を潜める。



「ユーカ様?」



 メアリーが不思議そうに私を見てくるものの、その場ではごまかし、とりあえずジークが居る執務室へと向かった。



「ジーク。夕夏です」


「入ってくれ」



 ウキウキした声で告げるジークに、私は首をかしげながらも入ってみる。すると……。



「ユーカ、今回は色々な豆を用意してみたんだ」



 そこには、小さな器に盛られた大豆、ひよこ豆、落花生、そして、なぜかインゲン豆や空豆もあった。



「えっと……」


「これで豆まきをしようと思う」



 日本では、絶対にまかないであろう種類の豆があることに驚きつつも、私は、『豆まき』という言葉にやはり、表情を強張らせてしまう。



「ユーカ?」


「ジーク、入っても良い?」



 何か問いかけようとしたジークを遮って、今度はハミルの声が届く。



「あぁ」



 ジークが許可を出せば、ハミルは大きな白い袋を抱えて入室してきた。そして……。



「ここに置くよ。よっと」



 執務室のテーブルの上に、他の器がないその場所に袋を下ろせば、何やらジャラジャラという音がする。



「僕は、大豆をたくさん持ってきたよ。これで好きなだけ豆まきができるよね」


「豆まき……」



 実は、豆まきには良い思い出がない。思わず、表情を歪ませて呟く私に、さすがにジークもハミルも気づく。



「ユーカ? 先程から、どうかしたか?」


「んー、熱はないみたいだけど、体調が良くないとか?」



 心配そうに尋ねるジークと、私の額に額をくっつけてくるハミルとに、私は迷った末に話すことにする。



「実は、豆まきに良い思い出がなくて……」



 そうして話したのは、日本の学校でのこと。二学期制だったその学校は、もちろん節分の日にもやっていて、登校した私を待っていたのは……豆まきと称した、ゴミの投げつけといういじめだった。朝のホームルーム前に行われたそれの後、ホームルームのためにやってきた教師が告げたのは、明らかにゴミを投げつけられた私に対して『さっさとゴミを片付けろ』の一言だった。それが、毎年のように行われていたということを話すと……何やら、ジークとハミルの顔が怖いことになっていた。



「ジーク? ハミル?」


「そいつらがここに居れば、すぐにでも殺してくれるものを」


「ジーク、それじゃあ足りないよ。殺してくれって言うまで追い詰めないと」



 二人は、そんな物騒な話をしていたものの、私が不安になっていることに気づくと、すぐにその表情を和らげる。



「ユーカ、今回の豆まきは、ユーカが豆をまくんだ」


「うん、そうだよ。僕達が交代で鬼をやるからね。楽しい豆まきにして、そんな記憶は消してしまおうっ」


「はい」



 そうして、まずは鬼のお面(角は自前のもの)を被ったハミルに豆を投げて、ジークと一緒に追いかけることにする。



「鬼はー外。鬼はー外。鬼はー外。鬼はー外」


「いや、ジーク? 福の方を忘れてない?」


「……鬼はー外」


「いやがらせ!?」


「え、えっと、鬼はー外っ。福はー内!」


「あぁ、ユーカが可愛くて和むよ……」



 と、いうことがあったり。



「日頃の恨みっ。鬼はー外っ、鬼はー外っ。鬼はー外っ」


「いっ! おいっ、本気で投げるやつがあるかっ!」


「ハミルさんっ。家のものが壊れちゃいますっ。メアリー達に怒られますよっ」



 そう言えば、ハミルはそのまま固まり、かなり控えめに豆をまくようになったりだとか。

 なんだかんだで、楽しい豆まきとなる。



「ふぅっ、全部まけたね」


「はい……でも、部屋がすごいことに……」


「大丈夫だ。《風よ》」



 大小様々な豆が落ちる床を見て、楽しさから覚めた私が困っていると、ジークが魔法を発動させて豆を全て集めてしまう。



「これは、後で選別して、料理に使えるものは全て使う」


「今日は豆料理だよ」


「豆料理……っ」



 どうやら、この豆達は素晴らしいものに生まれ変わるのだと知って、私は思わず目を輝かせる。



「来年もやろう」


「そうだね。次は、リド達も呼ぼうか」


「はいっ!」



 どうやら、私の豆まきの記憶は、新しく、楽しいものへと書き換えられたようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ