ヘルジオン魔国 迎える者(サージェス視点)
パイロは、私とともに行った貴族達への引き締めによって、恨みを買っていた。連日のように刺客が送られ、それを撃退する日々が繰り返されていたという。
(私は、何も、知らなかった……)
自身の片翼のことなのに、私は、何一つ知らないままだった。
(何て、情けないっ)
あまりの不甲斐なさに、頭を抱えたいところではあったものの、パイロを前にそれはできない。
「ですから、私の命を守るためにも、サージェス様には結婚していただき、お子をなして欲しいのです」
締め括られた言葉は、恐らくほとんど本心とはかけ離れているのだろう。パイロは、自分の命が危ないからといって、私への想いを押し殺す決断をするとは思えない。むしろ、刺客のことを隠し続けるに違いない。と、なれば、パイロはまだ、私に話していない内容があるということだ。
しかし、どこか苦しそうに告げるパイロに、片翼である私を奪われたくないと思ってくれているのだと知って、その内容を問い詰める気力は失せる。そもそも、どんな内容だとしても、パイロが自身の気持ちを押し殺さなければならないほどに、逼迫している事態であろうことに変わりはない。それに、パイロの命が狙われているという現状も、きっと、私が正妃を迎えて子を作れば、多少はましになるはずなのだ。全ては、次代の魔王を見極めるために、貴族達は固唾を呑んで見守ることとなる。つまり、私の返事は一つしかなかった。
「……分かった。近いうちに、正妃を迎えよう。選別は任せる」
「御意」
深く、頭を下げるパイロを見て、私は胸がズキズキと痛み、泣きそうになるのを必死に我慢する。後継者を残すことは、魔王としての義務だということくらい分かっている。パイロと出会う前は、それがこんなにも苦しい義務になるとは思ってもみなかった。
その後、やはり長居はできないということでパイロの部屋から出た私は、明日には並べられているであろう正妃候補者の書類を思って胸元で拳をギュッと握りしめる。
(私は、無力だ……)
部屋に戻った私は、泣き出したいのを必死に我慢して、ベッドに潜り込む。
(もっと、力をつけなくては)
パイロを守れる力がほしい。パイロの命が狙われるような事態は、徹底的に避けてしまいたい。パイロを狙う奴らは、全て潰してしまいたい。
それだけの願望を叶えるために、私は翌日から、今まで以上の必死さで様々な情報を集め、整理し、処理していった。
正妃には、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出す、紫の角に紫の髪、赤い瞳を持つ美しい女性を迎えた。年は、私より百歳ほど下で、名前はルーリア・リナリアス。義務ではあったものの、見た目とは裏腹に、心優しく天然な彼女へ、私はとにかく優しく接した。そう心がけていなければ、私は、すぐにでもパイロを求めてしまうと思ったからだ。
それから十数年。子が生まれにくい魔族としては、異例の早さで、私は、ようやく、子を授かることができたのだった。




