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樹海の騎士と貴族令嬢  作者: こはく
3/5

補足 カインの話

 ソフィアとカインのいる国は、つい最近まで隣国との大規模な戦争が勃発していた。

 小さくとも気候に恵まれた肥沃な土地、山脈から取れる化石燃料。

 それらは一年の大半雪に覆われ、やせ細った土地凍えと飢餓を抱える隣国にとってみれば、喉から手が出るほど欲しいものだったからだ。

 隣国は土地が大きく人口が多かったため、兵の数も多くこの国には勝ち目が薄かった。しかしこの国は多くの被害を出しながらも何とか国としての体裁を守りきり、他国の助力を借りながら停戦に持ち込んだのが4年前の話である。


 何故この国は強国の侵略に飲み込まれずに済んだのか。

 戦時中から現在に至るまで、国民や貴族の間にはおぞましいある逸話が囁かれていた。

 一人の若い兵士がおり、その兵士が来るまでは味方が大勢死んでゆくが、来た後は戦況が一転して敵の兵士が殲滅するという。

 常に独りで敵陣に現れ、陽炎のような毒々しい緑色の覇気をまとい、どんなに傷つけられても死なずに敵兵士を殺し続け、この国を完全なる勝利へと導く。

 しかしその禍々しい姿は味方にも恐れられ、姿を見れば死の象徴として誰もが畏怖する。

 兵士にはいつしか『緑の屍兵』という不気味な名が付けられた。



   ◇◇◇◇◇



 カインは戦場の中をひたすら進んでいた。


 戦って傷つけられたとしても体内には無尽蔵に治癒の力がある。その力によって何をされても肉体が死ぬことはなく、たとえ心臓を貫かれたとしても無事にのため、敵には大いなる恐怖を与えることになった。

 また何度も何度も場数を経験するうちに、彼自身もどんどん強さを増していく。

 国はそんな強く死ぬことのないカインを敵陣深くに送り込むことで何度も虚を突くことに成功し、戦いの主導権を握っていた。

 カインは自分の住む国が無くなった後のデメリットを考えていた。植民地として貧しい生活を強いられ、一生搾取されるだろう事に比べれば、この戦争で自分が一方的な殺戮を行うことは自衛行動の一環だと捉えていた。

 とはいえ進んで兵士として志願したわけではなく、元はとある村の農家に生まれただけの少年だった。

 戦争が始まることになり、村から徴収されたうちの一人に過ぎなかった。

 その頃のカインはまだ15歳ほどで、戦いなど無縁の生活を送っていたが突然訓練が始まり、基本的な事を学んだと思えた頃すぐに戦争が始まる。

 明らかに準備の足りない戦争だったが、出て戦う以外に自分たちの故郷や家族を守る手立ては無かった。

 藤色の左目は最初の戦争で喪い、その代償のように治癒の力を覚醒させた。


 恐らく協会には自分の回復の力がバレているのだろうとカインは思うが、戦場で敵の血に塗れ、数多の命を奪った人間はまさしく『汚れ』ているのだろう。

 なので戦争が終わった後も誰から何かがあるわけでもなく手厚く手当を貰い、カインはすんなり一庶民に戻ることができた。

 一時は国王にも謁見が許され、とてもいい剣を授与され、国家騎士団が彼を是非にと欲しがったがそれは強く固辞した。明らかに人でなしとして恐れられていること、今後も人でなしとしての仕事しか与えられないのは、火を見るより明らかだったからだ。

 カインは足早に王都を後にし、故郷には戻らず家族にも誰にも知らせず、ただ何処へと無く放浪していた。

 途中商家の用心棒などの仕事を請け負いながら身銭を稼ぎ、国中様々な場所を見て回る旅を2年もの間続けていた。戦いの腕はもはや治癒術を必要としない領域に達していた。凄腕の傭兵として名を馳せもしたが、カインにとってはただ生活のための稼業という考えしか無く、どこか虚しくもあった。



    ◇◇◇◇◇



 旅の途中、カインは深い樹海の中を歩いているうち、どこか不思議な感情に包まれた。何の根拠もないが、ここが自分にとってある種の『終着点』のような気がしたのだ。

 そんな折半ば廃墟と化した小さな家を見つけた。樹海の中腹にある廃墟など使われないだろうとしばらくこっそり住み着くことにした。

 それから2年の間、隠遁生活は続いた。

 ほぼ自給自足の生活になったが、植物を栽培する技術に加え、戦中に培われた狩りや野山の食べられるものを探す技術が役立ち、カインはこの生活がとても自分の身の丈に合っているように思えた。

 ここで誰に恐れられることもなく、人目を憚ることも無く一人で暮らして、老いて死ぬ。もうそれでいいとカインは思った。


 あの日の夜、ソフィアを見つけるまでは。

――――――


 補足の補足 カインの治癒術のざっくり設定


 この話中でカインが行使する治癒術ですが、外傷(または内傷)を瞬時に修復する大変ハイレベルなものです。

 しかし完全に失ったものは戻せないので、上編でソフィアが失血した分の回復はすぐにはできませんでした。造血の促進はしていましたが、普通の少女であるソフィアの体にはかなりの負担がかかってしまいました。

 また治癒の力に目覚める前に追った目の傷も元の眼球を摘出したため修復は不可能です。現在王都で造った義眼が入っています。


 あとは下編を残すのみです。ここまでお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告です。 「心臓を貫かれたとしても無事にのため」→「無事なため」 「徴収されたうちの一人」→「徴用…」 「追った目の傷」→「負った…」
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