1.俺の力@制限昏睡
「なんだテメェ。この俺様に注意をするとはいい度胸してんじゃねぇか。」
あまり人通りの少ない、脇道の路上で、そんな罵声がとんだ。この男は、私のお父さんが買い物の帰りに路上で酒を飲みながらたむろしていた若者4人を注意をしたらキレた。気に触ってしまったのかもしれない。怖い。
「私が全て悪かったです。間違っていました。申し訳ありませんでした。」
お父さんの声が震えている。怖い怖い。
「テメェその程度で済むと思ってんのか!?」
強面の男がお父さんの胸ぐらを掴みにかかった。私の位置からは鋭利な金属が見える。怖い怖い怖い怖い怖い…。私たち、こんなところで死んじゃうのかな…。
一瞬目を離した隙に、その強面の男はなぜか…眠り出した。突然の出来事だったので、私もお父さんもあっけにとられていたが、すぐにお父さんが私の手を引いて駆け出した。あれは何だったんだろう…。でも、あれは幸運だけじゃない。誰かがどうやってかはわからないけど、きっと助けてくれたんだ。私にはなぜかわかった。
あーあ。今日の授業も退屈だ。どうせこんな記号だらけの関数式見せられたってわかりっこないだろクソが。少しくらい気付けよクソ教師が。ふっと横を見た。今日も隣の席の藤村は真面目にノートとってんな。これだから優等生は。たまにはサボろうぜ。まあいいや、そんな自分の意思では絶対にサボれない藤村さんのために、今日は特別に俺様の"能力"を使ってサボらせてあげちゃおうじゃないか。俺は能力を使ってやった。ほーれほーれ。俺が"能力"を使った数分後、いつも真面目にノートをとっているあの藤村が寝た。やったぜ。
「ウオッホン」先生がわざとらしく咳払いをした。周りの藤村の友達たちが、肩を揺すって『藤村さん、起きなよ』と必死に起こそうとするが、無理だな諦めな。俺は心の中で教えてやった。もうお気付きの人もいるだろう。そう、俺、金沢和樹には"超睡眠力"という"能力"をもっている。もちろんこの名前は俺が勝手に名付けた。この"超睡眠力"は、いつから使えるようになったかも、なぜ俺だけが使えるかも実はわかっていない。俺が高校に上がって浮かれて、休み時間中に羽目をはずしてついそのへんにあった花瓶を割ってしまい、親の説教が長かったから「はよ終われ。いっそ眠ってしまえばいいのに」と思ったら、本当に親が眠ってしまった。俺は驚いたが、その時はラッキー程度にしか思っていなかった。でも、5分程したや親が起きてまた説教の続きを始めた。うざかったからまた心の中で「また寝ればいいのに」と思うとまた寝てしまった。このとき俺は気付いた。俺はいつからか"恐ろしい力"を得てしまったのではないか…と。
この力のメリットは、うるさい赤ん坊を眠らせることと不眠症患者を眠らせるくらいしかない。デメリットは、この"能力"は5分しか使えない、使い方によっては大事故になりかねない、使い主によって左右されるなど山ほどがある。あと、この"能力"は使いすぎると体調を崩すこともわかっている。使えることを知った日に親に使いまくってたら自分が39度の熱を出したからだ。バカやったな。
もちろん、こんなゲスな俺だ。この"超睡眠力"は気晴らし程度にしか使ったことがない。まあいいや。神様は多分、俺にこの力で世界を助けてもらおうとでも思っていたのかもしれない。それは判断ミスだ。悔やむなら自分を悔やもう。
「あっ…。すみませんでした。」
おやおや、やっと隣が騒がしくなってきたな。もう5分たったか。5分のつまらん授業潰しができてよかった。俺はそう思いながらやっとノートをとりはじめた。この後俺に何が起こるのかまだ全く気付いていなかった。