その他の補給方法
ライレさんはグラムタの通貨で報酬を払ってくれた。
鉄で出来た賤貨。銅で出来た銅貨。欠けのある銀貨。
手のひらに一杯ほどもあるが、どれもいびつで、模様もバラバラだ。
登録料に五枚しかないダブル・フローリンの一枚を宛ててしまったのはもったいなかったか。
でも仕方がない。あの時払える銀貨はあれだけだったんだ。
僕は気を取り直してライレさんにもう一度お礼をした。
「ありがとう。また明日来ます」
「そうかい。またコープス・ハンドを狩ってくれると嬉しいが……ま、明日だな」
ホールの外に出ると、物売りがたくさんいて少し憂鬱になった。
いろいろな物を買いたいけれど、この報酬がどれくらいの金額なのかよくわからないし、無駄遣いはしたくない。
まずご飯を食べよう。
牢では食事は嫌な時間だった。
父がずっと見ていて、かたいパンや塩気のないスープを少しでも残すと折檻されるからだ。
でも、町の食堂ならきっとそんなことはないだろう。
でも、他にも心配なことはあった。
食堂に入った事がないのだ。
おかしな事をしたらどうしよう。
お金を払い間違えるかもしれない。
もしかしたら代金がすごく高くて、報酬と懐の銀貨をあてても足りないかもしれない。
そんなことを考えていたら、食堂が並んだ通りを奥まで歩き切ってしまった。
だめだ。
何も食べずに歩いたり、戦ったりするのはこの世の理に反する、のだ。
消えたくないなら合わせなければ。
僕は勇気を振り起して一番近くに開いた扉に入った。
中はかなり狭くて、お客も数人しかいなかった。
あまりはやっていないのだろうか。
でも、だったら代金も高くはないだろう。
「いらっしゃい……探索者の方かい?ここは貧民向けの食堂だよ?」
食べ物を運んでいた女の人が僕を疑わしげな目で見て言った。
よくはわからないが、探索者というのは僕のことか。
僕はここではふさわしくないのか。
嫌だ。出ていかないぞ。
「食事を出してくれないのか」
大人っぽくしようとできるだけ低い声を出したら、女の人が怯えたような顔をした。
「大したものは出来ないよ……」
「それでいい」
僕は革袋に入れておいた報酬のお金をテーブルの上に全部出した。
これで足りなければダブル・フローリン四枚と虎の子のソブリン金貨が一枚ある。
「これで食べられるものをくれ」
お金は足りた。
十分すぎるくらいだったようだ。
女の人……リータという名前だった、は最初何のつもりかと食ってかかってきたけど、この街は初めてだと言うと首をかしげながらも親切に教えてくれた。
探索者というのは怪物狩りのことで、偉そうに言うときに使う言葉らしい。探索者はお金を持っているので貧民とは別の食堂に行く。
リータの食堂は貧民向けで、食事は一食で賤貨七枚。銅貨を払うと払い過ぎになってしまう。
「あんた本当に何も知らないのね」
リータは呆れたように笑った。
「最初はあたしを買おうとでもしてるのかと思ったわよ」
「買う?リータを?」
僕が問い返すとリータは顔を赤くして「そりゃ現役のときでもそんなに高くはなかったけどね」と言った。
よくわからないので僕はまた頷いておくしかなかった。
「で?食事はするの?言っとくけどほんとに大したものは出来ないよ」
「それでいい。リータは親切だ」
そう言うとリータはまた顔を赤くした。
食事はおいしかった。
これが大したものじゃないなら、僕は生まれてからずっと大したものを食べたことがないのだ。
パンはやわらかく、スープにはちゃんと肉が入っていたし、きちんと味付けがされていた。
僕は三回おかわりをして、満足した。
「よく食べたわね。こんな貧乏人の腹ふさぎをさ」
「おいしかったよ。また来る」
僕はそう言って銀貨を一枚置いた。
ニータがちょっと眉を吊り上げた。
「あんた、やっぱり女を買いに来たんじゃ……」
「女は買わない。そんなもの買ってどうするんだ。それより、油と鉛を買えるところを教えてほしい」
「は?油?鉛?」
ニータはなんだか傷ついたような、複雑な顔をした。