もやもやする気持ち
この事態の大体の理由はわかった。
……僕にどうしろというんだ。
「わかりました。誤解も解けたようなので、僕は明日帰りますね」
「え?結婚しないの?」
しないよ!
「結婚というのは大変なことなんです。簡単に決めてはいけないと思いますよ」
僕だってよくわかっていないのに、なんで年上のお姉さんにこんなことを言わなきゃいけないんだ。
そりゃ見た目は大人だけど。
「でも、義務が……」
「自分で相手を連れてくるのはやめた方がいいんじゃないかなあ」
「誰も教えてくれないのよ!ひどいと思わない!?」
だからって僕に聞かないで欲しいよ。
結局不承不承フィリス嬢が帰ってくれたのは夜中過ぎだった。
寝不足になりそうだ。
フィリス嬢がいる間も、帰った後も廊下は何人もの気配があるし。
そんなに気になるんだったら一緒に入ってくればいいのに。
それでもうとうとしていると、そのうち静かになってくれた。
朝食は昨日と同じテラスだった。
僕以外の前にはお茶しか出ていない。
ほんとに何も食べないんだな。
もちろん、僕にはハムと半熟卵、サラダなんかの結構な量の食事が提供されている。
ちなみにフィリス嬢はいない。
部屋から出てこないそうだ。
傷つけてしまったのかな。
でも仕方ないし。
うん、このハムおいしい。何の肉なんだろ。
もぐもぐと朝食を貪っていると、いきなりロイスから攻撃が来た。
「ヘタレねえ」
朝からそれですか。
廊下の気配の一つは彼女だったらしい。
「せっかくフィリスが気に入ってるから応援してあげたのに。あり得ないわ」
「何の話?」
リゲルは何も聞いてないみたいだ。
天真爛漫な顔をしている。
「何かしてたらその方が問題じゃないでしょうか」
僕は小さく言ってみたけど、あまり聞いてもらえなかった。
こういう男女のことというのは、ホールで何日か過ごすと嫌でも耳に入ってしまうし、僕の中の兵士は大人だから経験も豊富らしい。
でも、僕には詳しいことはわからないままだ。
普通の人というのはどうやって知識を得るものなんだろうか。
リータが言っていた女を買うという話も、今だったらなんとなくどういうことなのかわかる。
どこかで"買った"らその女の人に詳しく教えてもらえるんだろうか。
でも、ライレさんや他の探索者がそういう話をしていると、例外なく受付の女性たちから冷たい目で見られていたのも僕は覚えているんだ。
なんとか誰にも知られないように教えてもらえないものかなあ。
僕はものすごく不謹慎な事を考えてしまっていたのだけれど、朝食の席で無言で俯いていると、はたから見ると殊勝な態度にうつったらしい。
「あまり責めてはいけませんよ。真剣に考えていて下さるということなのだから」
アロイス奥様がかばってくれた。
それはありがたいけど、奥様、昨晩は僕ではダメって仰ってませんでした?
「そうだぞ!彼は潔くあきらめようとしているのだ!責めてはいかん!」
ローゼンシュタイン氏と、脇に控えたロロさんがうんうんと頷く。
……いったい何人覗いていたんだ。
「私も無理は言いたくないし、私が代われるんだったらそうするんだけど、"因子"がないのよね」
ロイスが難しい顔をした。
昨日聞いた話に入っていたな。
"混沌因子"という体質。それを持つ人狼の女性は他種族との間に子を作りやすいとか。
他種族との間に子供を作るのが何世代かに一回なのも、"混沌因子"を持つ女性が出生するのを待って、という理由もあるらしい。
かなり珍しい体質なんだそうだ。
「でも、僕は子供を作りにくいんでしょう?霊族だから」
「それは本当はどうなのかよくわからないのよね。なにしろ霊族との間に子供を作った前例ないから」
ええ、そうなんだ……。
「まともに話せる霊族なんて初めて見るしね。普通は熊人とか猫人なんかが多くて、かなり珍しいのが有鱗族とか翼族とか。普通人は能力の点で好まれないし、あまり種族が隔たっていると"混沌因子"の強さによっては子が出来ないのよ」
「あの子の"混沌因子"は歴代最高の数値ですわ。だから、霊族相手でも子をなす可能性は高い」
アロイス奥様がお茶を飲みながら言った。
奥様は結局反対なのかな、賛成なのかな。




