髑髏面
グラムタで怪物を狩るのには許可証が要る。
ただ、誰にでも交付されるそれを許可証などと言っていいものか。
しかし、誰にでも交付されるからだろうか、もぐりはそれほど多くない。
最初に銀貨一枚払うだけで素材の買い取りに便宜を図ってもらえるのだ。
それなりの腕があれば許可証を持っている方が楽なのである。
グラムタの市中央ホールは今日も許可証発行、買い取り持ち込み、苦情等で大騒ぎだ。
だが、そうした喧騒に職員が惑わされることはない。
グラムタは職員に高い給金を払っており、豪の者たちが揃っていた。
騒ぎが限度を超えると見れば腕力に訴え、情け容赦なく叩き出す。
ここで職員に文句をつけるのは愚か者だけである。
既に昼近く、腹をすかして殺気立った職員と怪物狩りたちは手早くそれぞれの仕事を片付けていた。
ここに、ホールの扉を押し開いて男が入ってくる。
それはまったくもって珍しくない。
怪物狩りは少数の例外を除いて男ばかりだ。
だが、丸腰の男は珍しい。
威を示し、交渉を速やかに進めるために怪物狩りは街なかでも武装を解かないのを常とする。
剣、斧、短槍、数は少ないが長柄の武器を鞘に収めて持ち歩く者すらいる。
だが、この男は丸腰で、それにも関わらず凶悪な力の気配を漂わせていた。
珍しい格闘士か、それとも更に希少な魔術士か。
腰に付けた黒い鞘に収めた小さな取っ手のついた物体はそう思ってみると極めて短い杖の一種に見えなくもなかった。
服は緑色で、しゃれた形の毛皮の帽子を被っている。
「くせえな……」
職員のうちでも古株の、ライレという男が顔をしかめる。
怪物の血と脂の臭いで充満したホールである。
鼻で嗅げる臭いのことではない。
人間の、それも大量の死の臭い。
「にいさん、傭兵かね」
ライレは近寄り、声をかけた。
「……違います。許可証、というのをもらえると衛兵さんから聞きました」
奇妙だ。地獄の穴から今這い出したような死の気配と、気弱な言葉。
この男を示す言葉をライレは思い浮かべた。
作り物じみている。
大きな、傷だらけの毛深い手。肩幅は広いのに首は細く、載っている顔は青ざめた少女のようだ。
多分、髭すら生えたことはないだろう。
ライレは男の年齢の見積もりを一気に二十歳引き下げた。
こんな人間がいるものなのか?
「許可証かね。銀貨一枚、払えるか?」
「はい」
男は懐から銀貨を取り出した。
「こりゃ、年代ものだなあ……」
ひどくすり減り、刻印さえほとんど読めない。
だが、びっくりするほど精緻な女の顔が彫り込んであるのはかろうじてわかった。
「だめですか?」
「いや、銀は銀さ。大丈夫だよ」
男はライレに初めて笑顔を向けた。
だが、その顔はなぜか髑髏に似ていて、ライレほどの猛者にして背中の毛が逆立つような寒気を感じた。
この男はしばらくの間グラムタでは「髑髏面」と呼ばれるようになる。