追加兵装②
「じゃあな。これから俺はその確認の出来るパーティーを集めなきゃならん」
「僕が一緒に行きましょうか?」
「ありがたいが、討伐確認は本人以外でやらなきゃいかんという規則があるんだよ。さっきと言うことが違って悪いが、今日は城外に行くのも控えてくれや」
なるほど。
自分で討伐して自分で確認しても意味ないしな。
でも、道案内もダメなのかな。
「確認に行ったパーティーを脅したり、買収したりする輩もいるからな。グライムズさんがそうだってわけじゃないが、規則なんだよ」
そう言われると、返す言葉がない。
場所は把握しているということなので、僕は今日の依頼を受けるのをあきらめた。
前のようにごみ浚いを受けたっていいんだけど、市民の皆さんを怖がらせては意味がない。
やっぱり"セドリックの竜"に行ってみよう。
あそこでなら追加された装備を確かめられるかもしれない。
シヴェシュにはすぐ会えた。
案内されて部屋に入ると、机で書類に埋もれるように仕事をしている。
忙しそうなのに、暇人につきあわせるようなことをして悪かったかな。
「あ、忙しかったですか」
彼は書類を裁きながらちらっとこちらを見た。
「忙しいと言えば起きている間はずっとこのようなものです。私にとっては現在は深夜の時間帯でしてな。いつ切り上げて休むかというタイミングを計っているところでした」
おやすみ前だったか。
「それで?フィリス嬢ならまだ変化はありませんぞ」
蛇っぽい女中さんが大きなベッドの影からこっちを睨んでいる。
ごめんなさい。邪魔をするつもりじゃないんです。
「中庭を使わせてもらえないかと思って……」
"ファントム"の中に新しい何かが入っている感覚について話をしてみたのだけれど、わかってもらえたかは微妙だ。
「魔物や亜人の一部が生来使える特殊な魔法については、余人には解りがたいものらしいですからな。とはいえ、私も興味があります。一緒に拝見しても?」
「はい。大丈夫ですよ」
断る理由もないよね。
「ではフィリス嬢は頼んだぞ」
シヴェシュが声をかけても女中さんは無言でうなずいただけだった。
声が出ないんだろうか。
「今は営業時間外ですから、一般の客に見られる事はありません。しかし、あまり大きな音を立てないように」
そりゃそうですね。
僕はプレイヤーの音量を押し下げた。
"ファントム"はまた抵抗したけど、押し切る。
たまにきつく言うことを聞かせないといけないって、おおいぬ亭のラウンジに置いてあった雑誌にも書いてある。
ペットの話だけど。
花壇と花壇の間に呼び出された"ファントム"はどことなく不満げに見えた。
飴とムチが大切とも書いてあったから、またの機会にいい油を飲ませてやろう。
「これはまた」
シヴェシュは冷静に言った。
「生き物とは思えぬ異形ですな。しかし美しくもある……妙なる音が聞こえますが」
あ、こっそり音量を上げやがった。
第五楽章の弦楽四重奏だ。
たしかにきれいな音だけどね。
「よいしょ……これは……」
僕は弾薬箱の脇に追加された婦人用の肩掛けバッグほどの大きさの鞄を見つけて絶句した。
中から白い包帯と金属製の器具、薬品の瓶なんかがのぞいている。
衛生兵用の医療キットじゃないか。
僕に、というか、僕の中にいる兵士にこれを使えるのか?
すぐに否定が返ってきた。
僕は衛生兵じゃない。
なんだってこんなものが入っているんだ。
僕は殺し屋で、人を救うなんてしたことがない。
と、妙な事に気がついた。
揺らしても音がしない。
ガラス瓶や金属の器具がふれあう音がしないのだ。
「妙なものですな」
シヴェシュが脇から見ていた。
「何なのかおわかりでない?」
「いえ、何なのかはわかるんですが、どうやって使ったらいいかわからないと言うか」
「ふむ」
シヴェシュは目をすがめて医療キットを見た。
「……見た目通りの道具箱ではありませんぞ」
この見かけで、爆弾だったりするってこと?
「強い生命力が込められております。見た目はおかしいですが、魔法薬の一種かと」