上げて落とす
「確かに五十柄受け取りました。しばらくお待ちいただけば、調薬出来るでしょう」
「よかったです。すぐに起きられるようになるんでしょうか」
いや、とシヴェシュは首を振った。
「仮死の時間が長すぎます。一気に起こすのはかえって危険でしょう。……これを、ザイクロトルに渡しておくれ。話しておいたから」
ベルで呼んだ召使いに狼毒を渡し、フィリス嬢の方に振り返る。
ふうん。じゃあやっぱりここで見守るつもりなのか。
僕が何気なくうなずくと、いつも冷静なシヴェシュが少し早口に言った。
「仮死の状態から蘇生すれば、さすがに私一人では面倒を見られません。尾籠な話ですが、下の世話などもありますので、女手は入れますよ」
「あ、はい……何か焦ってます?」
「いえ、別に!」
怒ってる。
「ローゼンシュタインの現当主とは、昔からいろいろ軋轢がありましてな」
「はあ」
「それにやつはフィリス嬢を溺愛しておりますから」
「なるほど」
「やましいことが何もないとは言え、生きていることを隠し、私室に匿っているなどと知られては少々困るのです」
「わかりました。万一お会いしても黙っておきます」
「頼みましたぞ。それはそれとして、狼毒を余分に取ってきたりはしていないでしょうな」
「え……」
「狼毒は狼人にとっては好ましくない薬品です。勝手に市場に流したりなどしようものなら、敵対行動同然」
「捨てておきます……」
「私が引き取ります。見本も返却願いますぞ」
もうけ話が一つ潰れたよ。
うまい話はなかなかない。
調薬には時間がかかりそうだし、もう一つのもうけ話も話しておこう。
「これなんですけど、見ていただけませんか」
大きい呪石を見せると、シヴェシュはちょっと目を見開いた。
「大層な代物ですな」
「呪石だと思うんですが、普通のより大きいですよね」
「見たことがないほどの大きさです。これは、コープス・ハンドから?」
「ちょっと大きかったですけど」
ふうむ、とシヴェシュは考え込んだ。
あれ?期待してた反応と違う。
高く買い取ってくれたりしないかなと思っていたのに。
「……正直に言っていただけますかな。そのコープス・ハンドですが、ちょっとどころではなく大きかったのでは?」
「あ、はい。だいぶ……」
何だろう。これもダメなの?僕の儲け話が……。
「墜ちた巨人、といいます」
「え?」
「その巨大なコープス・ハンドがそうくたばり果てる前はそのように呼ばれておりました。"大襲来"では多数のグラムタ市民がその恐るべき力の犠牲になったものです」
「悪人なんですか?」
「悪人というか」
シヴェシュはちょっと笑った。
「悪の怪物です。やつは死後も動く死体となってまでグラムタに仇をなしてきましたが、それが滅びたことで溜飲を下げるグラムタ市民は多いことでしょう」
そう言って彼は頭を下げた。
「私もその一人です。感謝しますぞ」
お、おう……お金になるかどうかとか、聞きにくくなっちゃったな。
「しかし、コープス・ハンドとなった墜ちた巨人は、さぞ難敵だったでしょうな」
うん。たしかに。
でもむしろお金と存在値のほうに痛かった。
「報奨金とか、出るんでしょうか」
うう、なんだかお金のことばかり聞いてるような気がする。
ちょっと恥ずかしいよ……。
「報奨金ですか。あれはほぼ自分の居場所から動きませんし、まさか挑む探索者がいるとは思われていなかったので、特に報奨金は設定されていなかったかと」
シヴェシュは気の毒そうに言った。
「お気を落とさずに。コープス・ハンドが絶え間なく出現するのはやつのせいではないかという仮説もありますので、実際に出現が減れば、大変な偉業と認められますぞ」
名声か……。
たしかにグラムタに来て最初のうちは名声を得たいと思ってたんだよな。
いいかも知れない。
お金はこの大きい呪石を売れば入ってくるだろう。
「その石のほうは討伐の証拠になさるとよいでしょう。売ってもたいした値はつかぬはず」
何なの?
何であげてから落とすの?
「呪石の買取りをホールでやってるじゃないですか」
「呪石の買取りは、コープス・ハンドの討伐の証として行っておるはずです。魔術の触媒に使う用途もありますが、ごく少量しか使われませんので」
「でもこんなに大きくて……」
「死体の中から出てくる巨大な石というだけで気味が悪いのではありませんか」
「ひ、ひかってますし」
「美しいとは思えませんなあ。むしろ邪悪な感じが」
もういいよ!




