釈放(仮)
「正教徒の死体については、こちらの手の者に処理させておきます」
どうやって処理するんだろう。
考えても仕方がないけど。
「では、早速行ってきますね」
「お気をつけて。それとですな」
シヴェシュは意味ありげに言葉を切った。
「なんでしょう」
「事態が落ち着くまでは他の街に行かれたりしないようお願いいたしますよ」
「はい……」
釘を刺されてしまった。
逃げる気満々だったからね!
おおいぬ亭に寄って一応の言い訳をしておこうか考えたけど、話がややこしくなりそうなのでやめた。
僕一人でやれる事には限りがある。
旧墓地に続く西門はもうかなり日が高いというのに、混雑していた。
僕の(無駄な)偽装工作のせいで、出入りが厳しくされているらしい。
みなさん、申し訳ない。
僕自身は顔見知りの門衛さんがいて、何も怪しまれはしなかった。
狼毒の見本はもらってきたけど、これ乾燥してるんだよね。
生の状態でわかるかなあ。
今日もコープス・ハンドは元気だ。
早速五体ほど寄ってきたけど、弾が残り少ないので、ウェブリーしか使う気はない。
とはいえ、.455ウェブリー弾だって無限じゃないから、節約しないといけない。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。
きれいにそれぞれ一発で壊せた。
扱いがうまくなったのかな。
むしろ威力が増しているような気もする。
そういえば、存在値はどうなっているんだろう。
僕は歩きながら値をおそるおそる確認した。
存在値:15092
特に減ってはいなかった。
逆にびっくりするくらい増えてもいない。
まあ、そこそこ?
"ファントム"に無理をさせたり、大盤振る舞いで撃ちまくったりした割には増えている。
殺人が存在値にものすごく影響するってことはなさそうだ。
もちろん、罪のない人を殺したりしたら違うかも知れないけれど、そんなことを試すつもりは全くない。
狼毒は思ったより簡単に見つかった。
乾燥していても、生の状態とそんなに差はない。
元々みずみずしい植物じゃないのだ。
硬いとげのある茎から暗緑色の葉が放射状に生え、真ん中に丸まった赤い花弁がちんまりと付いている。
でも、ある程度育っていないと意味がないので、採取できる状態のものは少なかった。
五十柄なんて、普通に集めていたらいつまでかかるかわからないぞ。
奥に向かうしかない。
あまり戦いたくはないけど。
「うわ、なんだあれ」
ひとりごとを言う。
旧墓地に続く廃道にものすごいものが居座っているのを見たからだ。
コープス・ハンドなんだろうけど、大きさが違う。
人間より桁違いに大きいのだ。
巨人というやつなのかな。
普通のコープス・ハンドより保存状態はよくて、ちゃんと皮膚も残っているけど、死体なのは間違いない。
だらしなくあいた口には、ぼろぼろの長い牙が生えていた。
濁った目は今にもこぼれおちそうだ。
どうしよう。
ウェブリーだと相当弾を使ってしまいそうだ。
迂回しようかな。
あ、動いた。
こっちに来る。
気づかれてしまったみたいだ。
こういう大物には、腰につけておいたこれが効くんじゃないか。
ミルズ型手榴弾だ!
ピンを引き抜いて突っ込んでくる巨死体に投げつける。
「デカブツといえば、戦車に投げたことがあるが」
そこで、僕の中の知らない人が勝手に呟いた。
「ハッチに放り込むつもりが外れてなあ」
不吉な事を言わないでほしいよ。
「何の役にも立たなかったな」
腕がちぎれただけで、そのまま突っ込んできた。
役に立たなかったわけじゃない。
ちょっと威力が足りなかった。
近くに寄ると、さらに大きさがよくわかった。
身長は人間の五倍くらいある。
痛みなんか感じないから、むしろ足に投げつけて移動力を奪うべきだった。
巨死体は大きく胸をふくらませ、腐敗した血の混じった息を嵐のように吹き付けて来た。
汚いな!
僕は後ろ向きに走って距離を取りながらウェブリーで目を狙ったけど、残ってる方の手で防がれた。
多少知能があるのかな。
普通のコープス・ハンドと違っていろいろやってくる。
"ファントム"を呼び出す隙を作らないと手榴弾を追加してやれないじゃないか。