死せるスノウホワイト
方針は決まっても、問題はなにひとつ解決していない。
どうやって門を通ってシヴェシュのところまで行けばいい?
グラムタから出る時に門衛が買収されていたのは確実だ。
馬車に乗ってそのまま戻ればいいんじゃないか?
でも、この案は無理だ。
どの門から出たのか確信が持てないし、買収された門衛が戻った時にもまだいるかどうかわからない。
それにその門衛が襲撃者の仲間だったりしたら、それこそとんでもないことになるだろう。
僕には門衛をごまかすような力はないし、高い門を飛び越える手段も無い。
ないないづくしだ。
昼まで待って人混みに紛れる?
死体さえ持ってなければね!
無理すぎる。
つまり、なるべく早く、夜が明けてしまう前にこっそり忍び込むしかないんだ。
朝まではどれくらい時間があるだろう?
急がなくては。
僕はもう一度"ファントム"を呼び出し、硬直した死体を助手席に押し込んだ。
プレイヤーの音量を絞り(遺憾ながら切ることはできない。今気づいた)グラムタに気づかれないように近づいた。
西門だ。
まともに入れるわけはない。
僕は"ファントム"を木陰に残し、死体を担いで走りはじめ、城壁にぴたりと張り付いた。
門の明かりがかろうじて届かない程度の距離だ。
ここからが肝心。
"ファントム"を離れた場所から感知することは今までも出来ていたけど、命令を下すことは出来るんだろうか。
ぶっつけ本番で、出来なかったらもう、どうすればいいんだろう?というくらいの考えなし作戦だ。
プレイヤーの音量を最大に。
出来た。
選曲は……出来ない。
抵抗された。
第二楽章の続きだ。特に激しいところだからまあ、いいけど。
さらにヘッドランプの光量をを最大に。
そしてわざとゆっくり城門に接近させた。
これは相当に目立つ。
思った通り、門衛の人たちが飛び出してきた。
今だ!
うまく市内に入れた。
"ファントム"は門衛が近づく前に消したので、しばらくは混乱してもらえるんじゃないかな。
でも、ここからだって簡単じゃない。
僕の今の格好はひいき目に見ても人さらい。
担いでいるのが死体となったらそれに殺人鬼が追加だ。
僕は建設現場の資材にかかったぼろ布を失敬して死体をくるみ、ついでに角材を仕込んで資材を運ぶ感心な早起き労働者を気取ることにした。
誰にも見られないように祈りつつ、"セドリックの竜"に走る。
早い人はもう起きている時間だけど、だからなのか見回りの衛視は多くなかった。
助かる。
それでも結構な時間がかかった。
赤い壁が見えてくるころには、完全に夜が明けていた。
あ、どうやってシヴェシュを呼んでもらえばいいんだ。
えらい人のはずだから、僕みたいな不審者に簡単に会わせてくれるはずがないぞ。
完全に煮詰まって、真正面からドアを叩こうとした僕の背に何かの視線が触れた。
後ろを向くと、シヴェシュがそこにいた。
「今晩は。それとも、お早う、ですかな」
「あ……」
どう言えばいいんだ。
「私の私室においで願えますかな。まだ店は開けておりませんし、死体を広げる場所もございませんから」
ああ、もうわかっているんだ。
かえって安心してしまった。
「まず、ですな」
「はい」
僕がシヴェシュの広い部屋で今晩のことについてかいつまんで話をすると、彼は額に手をやって考え込んだ。
「お聞きしたいのですが、"ファントム"というのは、死体を乗せて走ってこられる訳ですな」
「はい」
「グラムタ市内では出すことはできない?」
「場所があれば……試したことはないですけど」
「死体を乗せたまま消したらどうなります?」
「え?ああ……」
僕は何を聞かれているか気づいて、愕然とした。
「"セドリックの竜"には十分な広さの庭があります。単身忍び込んで、ここで取り出せばよかったのでは?」
「そうですね……」
「いらぬ苦労をなさいましたな」
シヴェシュは特に意地悪そうでもなく笑った。
「む、これは……」
でも、シヴェシュの笑いは死体を見ると消えた。
誰の死体かわかってるわけじゃないんだな。
「見覚えありますか?」
「ローゼンシュタイン家のフィリス嬢です。狼人の名門ですな。私もよく存じております」
「僕は死体を見つけただけなんですけど、罪になったりする可能性ありますか」
「これは、かなり由々しい問題です。貴方だけの話では済まないかも知れません」
やっぱりそうなのか。




